百貨店の歴史を詰め込んだ小さくて深い史料館
文化や芸術に触れられる場が身近にあるのも、都市居住の魅力。大阪市内の多様な文化施設をあんじゅでも取り上げています。
あんじゅ46号「百貨店が届けた豊かさの歩み」では大阪の百貨店の歴史などを紹介しました。その中で登場した髙島屋の歴史を伝える髙島屋史資館へ大阪くらしの今昔館の増井館長とともに訪ねました。伊藤誠人(いとう せいじん)史料館長と研究員の高井多佳子(たかい たかこ)さんに解説いただきながら館内を巡りました。
百貨店通りに残る名建築
髙島屋大阪店の東側にあるなんさん通りを堺筋まで歩くと、髙島屋東別館に到着する。外壁に美しい装飾が施された重厚な雰囲気の建物は、2021(令和3)年に国の重要文化財(建造物)に指定された。その3階に髙島屋史料館がある。
堺筋は大正末期の大大阪時代、いくつもの百貨店が建ち「百貨店通り」と呼ばれていた。伊藤館長は「戦前の建築が見られる貴重な場所。当時はまだ珍しかった全館冷暖房完備で、1階から全て煌びやかなしつらえになっていた」と話す。
展示室の奥にあるエレベーターホールは建設当時の姿を残している。「お客様を華やかな別世界にいざなうためのデザインがほどこされていた」と高井さんはいう。生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪に参加する名建築の一つだ。
最新のデジタル技術を活用
髙島屋史料館はおよそ5万点の資料を収蔵している。今回はアーカイヴス展示室を案内頂いた。「アーカイヴス展示室では、限られた展示スペースの中で収蔵品をできるだけ数多く見ていただけるように、最新のデジタル技術を導入しています」と高井さん。
まず最初に驚くのが、受付ロビーの壁面にある大きなディスプレイ「髙島屋コレクションボード」だ。タッチパネルになっており、お気に入りを3つ選ぶと解説をプリントしてくれるサービスもある。
展示は髙島屋の理念紹介と歴史年表から始まる。壁面に投影された年表も手で触れるとスクロールでき、解説が表示される。「年表をデジタル化したことで、コロナ禍の出来事など最新の情報も追加することができます」と高井さん。他の百貨店や経済・社会の歴史も併記されており、幅広く深く知ることができる。
楽しく余すところなく見せる
年表や理念を紹介する「進取の精神」コーナーに始まり、「美・アート」「暮らし」「まちづくり」「未来へ」というテーマ別の展示が続く。日本で初めて髙島屋が取り入れたというショーウィンドウは、明治期から現代までの写真をスライドショーで見せている。
髙島屋のマスコット「ローズちゃん」、呉服、広告宣伝物などの実物展示は時節に合わせて入れ替える。百貨店が衣食住のすべてにかかわり、多様な楽しみを提供してきたことがどの展示を見ても伝わってくる。
伊藤館長と高井さんの解説付きという贅沢なガイドツアーを終えて、増井館長は「長く百貨店で育まれてきたサービスの文化、それを形にする意匠力を理解し、感じることができる展示施設でした。どの時代でも百貨店は暮らしのスタイルをつくってきたことがわかります。こうした都市居住を豊かにしてくれる魅力的な文化施設を今後もあんじゅで取りあげていきたいですね」と語った。