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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

あんじゅ100号で振り返る「大阪の住まい」 編集者座談会

 

住まう人々と一緒につくる

 

栗田ちひろ 本日はあんじゅの編集にたずさわった方々にお集まりいただきました。過去の記事を振り返りながら、大阪の住まいについてお話しできたらと思います。まずは弘本さんに、あんじゅ創刊の目的について伺います。

 

弘本由香里 大阪は豊かな住文化の歴史があり、職住遊が三位一体で揃っています。歴史や社会背景を含め、住まいの情報を発信し、時代にあわせた新たな住文化づくりに貢献できるツールとして創刊しました。大阪に住まう様々な人とつながって、一緒に作ってきた冊子です。

 

栗田 頻繁に取り上げてきたテーマの一つが長屋ですね。

 

弘本 「人とまちを温かくつなぐ長屋の暮らし」(10号)、「大阪長屋サミット〜長屋の魅力再発見!」(15号)などですね。大阪長屋の認知を広める役割は果たせたと思います。とりわけ2010年代以降は職住一体型で小さな商いをするスタイルが増え、長屋がかっこうの受け皿となっています。

 

井戸廣子 長屋は修繕が大変。解体しかないと思っていた家主さんたちが、そういった人たちに貸すことで家が生きることを知った。住民同士の交流もあったり。

 

朝田佐代子 表紙が長屋の写真のあんじゅ94号「長屋から考えるこれからの都市居住」を見たことがきっかけで、相談に来られた長屋の家主さんがいました。

 

 

集合住宅の歴史を深掘り

 

栗田 私が取材した長屋はシェアハウスとして使われていました。

 

弘本 今はシェアハウスに暮らす敷居が低くなってきているように感じます。SNSなど情報面でも大きく変化しました。

 

井戸 ライフスタイルの多様化にマッチしてきたんですね。住むというよりも長期旅行のような感覚かも。

 

栗田 集合住宅関連では、50号の「大阪の集合住宅の歴史をひもとく」がとても勉強になりました。

 

井戸 この頃、今昔館に模型がある古市中団地の建て替えが進んでいました。古市住宅は完成当時、最新の集合住宅でしたが、それを高層化する段階を迎えていました。

 

弘本 大阪には都市に集まって住む知恵が蓄積され、いろんな集合住宅が生まれてきた歴史も伝えなくては、という思いでつくった企画でしたね。

 

 

住むまち大阪のいつもの暮らし

 

弘本 創刊号の「リバーサイドで健康的に暮らす」で紹介した集合住宅に、久しぶりに訪れたらとても心地よい環境に成熟していて嬉しく思いました。

 

栗田 水辺も何度も登場するテーマですね。川だけじゃなく、海も池もあって、長堀のように埋められた川も紹介しています。

 

弘本 毎日自転車で天神橋を渡って通勤することを楽しむ人や、舟で通勤する人を紹介するという記事も。大川では、通勤用の運行は無くなりましたが、いろんなタイプの観光用の船が走っていますね。

 

栗田 大阪市内で暮らすと、舟で通勤するという選択肢があるのか、という驚きがありました。

 

井戸 そういう選択肢があることを知っているかいないかで、暮らしの楽しみがずいぶん変わりますよね。目新しさを追いかけるのではなくて、大阪のいつもの暮らしの中に、あんじゅの記事にしたいことがいくらでも見つけられます。

 

本藤記子 14号の「都市を楽しむシングル流ライフスタイル」も、普段の暮らしの紹介ですね。20〜70代の住まいと暮らしの楽しみを取材した記事です。

 

弘本 居住の変化に目を向けました。今、大阪は単独世帯が50%を超えていますね。

 

朝田 一人住まいでも、あらゆる年代の人が安心して暮らしやすいまちかもしれません。

 

弘本 創刊から25年経って、時間を積み重ねたからこその視点で新たな発見ができそうです。

 

本藤 過去に取り上げたたくさんのテーマの中から、もう一度取材してみるのもいいかもしれないですね。

 

 

商店街いろいろ

 

井戸 百貨店や商店街も取り上げていますね(46号90号他)。

 

弘本 身近な商店街の多彩さは大阪の特徴の一つですよね。

 

井戸 通路の両側に店舗があって、アーケードがあって、ちょっと狭い。天神橋筋商店街の天五から天六あたりのように、狭いからより賑わいを感じる。天神祭の時の混雑でさえ楽しめてしまう。

 

弘本 商店街ごとに成り立ちが違って、いろんな歴史的背景があるのが面白いです。社寺の参詣道とか公設市場を核にとか、住宅地開発とセットでできたとか、住まう人が自ら立ち上げた商店街もある。

 

井戸 商店街によっては利用する人が減って、下火になってきているところもあるけれど。

 

弘本 それでも、商店街はコロナ禍で良さが見直されたように感じます。開放感があって、適度な距離で声を掛け合える。

 

井戸 いろんな商店街があって、行ってみたいなと思える場所がたくさんある。

 

弘本 すごく恵まれたまちですよね。

 

 

歴史に触れながら今の情報も伝える

 

弘本 振り返って読んでみると、歴史的背景を大切にしながら、新しいまちの様子や暮らし方を伝えているのがあんじゅの特徴だと改めて思いました。

 

栗田 人を中心にしながら、地域のことや、住まいに関する施策や制度を伝えていく役割がありますね。

 

弘本 取材に行くことで人とつながることも大きな目的です。つながった人を介して、住まい情報センターを活用する人が増えてくれたらいいですね。

 

 

編集者座談会こぼれ話

 

編集にたずさわったみなさんの座談会では、他にもたくさんの話題が出ました。

 

 伝統野菜(21号)とか、だし(25号)コナモン(59号)など食もいろいろ取り上げた。老舗の和菓子屋さん(47号)にも行きました。自分たちが住むまちの文化を伝える特集がたくさんあります。(本藤)

長く続けておられる小さな老舗のお店を支えているのは、地元や近所の人。(井戸)

和菓子の老舗もたくさんあって、季節ごとにお茶を楽しんだり贈答したりする文化がある。それを伝えるのは大切ですね。(弘本)

 

歴史

 「町名はタイムカプセル」(43号)をもう一度やってみたい。住んでいる人しか知らない町名がたくさんあるはず。いろんな地域にある地名の由来などを取材したい。(井戸)

 

 だんじり(88号)や、地蔵盆(71号)も取り上げました。だんじりを取材したのは1度だけですが、今だにウェブ版のアクセス数が多い記事です。(栗田)

だんじりや地蔵盆は地域に根付いたものなので、外に向けた情報発信は少ない。あんじゅだからこその記事かもしれませんね。(弘本)

お祭りは生活の一部のような、地域の暮らしにある楽しみの一つ。普段会えない人とも会える。(井戸)

 

 

元編集スタッフからのメッセージ

取材を通じてたくさんの人に出会い、沢山パワーと元気をいただきました。

 

なかでも印象に残っている取り組みは、75号:DIY賃貸で暮らす

 

この号では、斬新なアイデアでこれまでの賃貸住宅オーナーとしての枠を超えたマネジメントを実践している事例のお話を聞くことができました。

 

現地へ出向くと、100m区画の新しい集合住宅の空間が広がっていました。建物内部を案内してもらったところ、おしゃれにリノベーションされた庭やカフェのある住空間が創造されていて、ワクワクとした気持ちになったことを今でも覚えています。

 

入居者にこの場でどんなまちづくりをしたいかの面接がおこなわれたり、入居前に床のワックス塗りや餅撒きなど楽しいイベントを企画されたりなど、志を同じくする人が人を呼ぶ仕掛けをつくり、その人たちが住み着くことでまちのイメージが醸成されていく、賃貸の新しい形を垣間見ることができました。
(ミュージアム担当係長玉井)

 

初期メンバーとして20年以上前にかかわっていました。


当時、「住むまち大阪STYLE(※)」というコーナーがあったのですが、まちの魅力や暮らし方が紹介されていました。

 

商店街、町家、大阪に残る歴史、自然、お祭りなどいろいろな切り口があり、こんなところにこんな魅力があったのかと面白い企画でした。取材されている方の中には、今では有名になった方の若いころのインタビューもあります。


住まい情報センターでは、いろいろなセミナーやシンポジウムを行っていますが、当時一般的ではなかった中古マンションのリノベーションや長屋の再生などを早くから取り上げています。あんじゅではその内容を記事として掲載しているので、今も見ることができるのは記録として貴重だと思います。(I・Y)

 

 

19号から34号まで関わっていました。


「住むまち大阪STYLE」は、テーマ選びと取材先にいつも苦労していた気がしますが、仕事としては大変楽しいものでした。

 

今回お勧め記事を選ぼうと思いましたが、難しく、諦めました。編集に携わった時から20年ほど経って、記事を読み返しましたが、今はもうお話を聞けない方もおり、感慨深いです。

 

「住むまち大阪STYLE」としては12回の記事に関わりましたが、欲張りですが、全てを読んでいただきたいなと思いました。
これからも大阪の住むまちとしての魅力をしつこく取り扱ってください(笑)

(T・M)

 

※「住むまち・大阪STYLE」は大阪市内のさまざまなスポットやシーンを取り上げ、都市での快適な住まい方、魅力ある暮らし方を見つけていく記事の名称です。1号から79号まで継続し、以降は「特集」としてテーマを引き継いでいます。