混乱し続ける被災後の生活再建 ―災害ケースマネジメントの展開から考えるー
講師:菅野 拓 氏
(大阪公立大学 大学院文学研究科・文学部 地理学教室 准教授)
被災者支援の担い手
災害によって人や社会が受けるダメージは均一ではありません。ダメージの原因は何か、自治体の規模や能力はどうか、仕事・雇用の喪失はあるかなど重層的で多様な要因によって異なります。高齢、障がい、生活困窮など、もともと抱えている脆弱性がダメージの受けやすさに大きく影響します。
平時において高齢者や障がい者を支援しているのは医療や福祉です。その主たる担い手は民間事業者です。食料や生活用品などの物資、住まいの供給においても同様です。そして、災害はその地域での暮らしの全ての場面に被害をもたらします。
災害時には平時に民間が担っていた部分も含めて、行政が担わなければならないのが、現状の制度です。大きな負担がかかり、自治体によっては人員不足などからすべてに対応しきれない可能性もあるでしょう。
被災者支援のズレ
被災者の生活再建支援にかかわるものに「罹災証明」の区分があります。罹災証明の区分は、住家の被害を判定するものです。持ち家か借家かによらず、仮設住宅に入居できるか、様々な現金給付を受けられるかなどにかかわります。
また、東日本大震災では避難所外避難者が中心となる「在宅被災者」や、「みなし仮設入居者」「原発被害による長期避難者」が支援の枠組から漏れてしまいました。
住家の被害の差にかかわらず、災害によって仕事が無くなってしまった人、障がい者や要介護者、生活困窮者など支援が必要な人がいます。「生活困窮者自立支援法」「介護保険法」「障害者自立支援法」「国民皆保険制度」と、社会保障における法整備は進んでいます。しかし、災害関連の制度との連携は図られていないのが現状です。
被災状況は一人ひとり状況が異なるため、個別の状況を把握して必要な支援を届けようとする取り組みが各地で始まっています。
災害ケースマネジメント
東日本大震災の被害を受けた仙台市では、被災者の生活再建支援において先駆的な取り組みが行われました。
シルバー人材センターの人たちが、仮設住宅だけでなく、みなし仮設や在宅避難者も含めて1軒ずつ訪問し、被災状況を把握。市がカルテを作成し、世帯ごとの被災状況データを蓄積しました。
それらのデータをもとに、行政、社会福祉協議会、NPOなどからなる被災者生活再建支援ワーキンググループがケース会議を行い、見守り・介護サービス・就労支援など必要な支援を決定し、支援にあたりました。
個別のケアプランを作成したことで、仙台市では他地域よりも早く仮設住宅が解消されました。仙台市のような支援を「災害ケースマネジメント」と呼び、全国で取り組まれています(*2)。
*2:[内閣府]災害ケースマネジメント実施の手引き(令和5年3月)
災害ケースマネジメントにおいては、(1)個別世帯の状況に応じた伴走型支援、(2)多様な主体が連携し平時の社会保障も含めた多様なメニューを組み合わせた支援が行われます。
能登のケースマネジメント
2024(令和6)年1月1日の能登半島地震は、巨大な地震で、正月の帰省などで平時より人が多く、行政は人員が少なく、真冬だったなどの悪条件の中で起こりました。半島を移動する主要な道路は寸断され、ライフラインは壊滅的な被害を受け、ボランティアもすぐには受け入れられない状況でした。
このような中、石川県は広域避難者などの避難所外避難者の情報収集を行うために、1月19日から公式LINEを使った被災者登録を開始、23日に復興生活再建支援チームを設置して被災把握を進めました。
政府が1月25日に発表した「被災者の生活と生業支援のためのパッケージ」には、「被災者一人ひとりの主体的な自立・生活再建を支援する災害ケースマネジメントの取組を〈中略〉被災者に寄り添った見守りや日常生活上の相談支援等を行う」と示されています。
能登半島地震をきっかけに、災害救助法に福祉的支援を位置付ける動きも出てきています。仙台から始まった災害ケースマネジメントは、地域における防災力強化と災害支援の軸となっていくでしょう。
参加者の感想
- 今日のお話は大変参考になりました。行政が全部やることになっている日本と海外の違いについてはもっと深くお聞きしたいと思いました。
- 菅野先生の話が明快でとても為になりました。もっと詳しい話を聞きたかったです。
- 災害について後進国ということがわかりました。貴重な資料ありがとうございました。
- 多様な専門家チームと消費者の相談に耳を傾ける相談員の方とが、セットで動く災害マネジメントが大阪で実現できるといいなと思いました。