トークセッション
シンポジウム後半は菅野氏と、大阪すまいラボ防災プロジェクトのメンバー、大阪くらしの今昔館、住まい情報センター担当者らによるトークセッションを行いました。
災害時の不安を受け取る
前田 菅野先生のお話を聞いて、今後の災害においては、個別の困りごとに対応することが重要で、災害ケースマネジメント的な取り組みが欠かせないことを実感しました。住まい情報センターの相談窓口にも災害時には多くの相談が寄せられたそうですね。
兼田 大阪府北部地震では約250件、同年の台風21号では800件を超えるご相談を受けました。能登半島地震でも大阪に住まいを求めるご相談が数件ありました。平時と同じ体制で対応しましたが、抱えている不安を出し切っていただけるように心がけました。
災害時にはさまざまな制度ができるので、必要な制度を必要なタイミングで情報提供できるよう把握することも重要だと考えています。
災害時の対応はマニュアルにするなどさまざまな形で蓄積し、活用しています。また、大阪すまいラボ防災プロジェクトで専門家から学んだり、三都連携事業で災害相談Q&Aを作成したり、専門家との連携も行っています。
前田 専門家との連携という点では、荒木さんが建築の分野で災害ケースマネジメント的な取り組みをしているように思います。鈴森さんも大阪で長年相談支援をされていますね。
荒木 大阪府北部地震では建築士会で無料の電話相談を実施しました。ブロック塀の倒壊で死者が出たこともあり、発災当初はブロック塀に関する問い合わせが多くありました。災害後は、初期段階から安心してもらえる情報を提供できる相談窓口が必要だと痛感しました。
これからの時代は自治をベースとした災害への備えが必要という菅野先生のお話を聞いて、我々のような専門家がどのように支援に関わるのかが問われていると思います。
鈴森 生活者と建築業界をつなぐ役割を自分たちに課して相談業務にあたってきました。住まい情報センターと同じく、我々も住まいの維持管理について啓発活動をしています。
例えば、戸建住宅でも独自に修繕積立金を用意することを勧めています。災害時に自由に使える資金となるからです。また、家を建てた時だけでなく、日頃から継続的に工務店と繋がっておくことも勧めています。災害時に工務店は顧客優先で動かざるを得ないためです。
平時から災害に備える
前田 災害に対する備えについては、大阪すまいラボ防災プロジェクトでも情報発信を行っています。荒木さん、鈴森さんと私は大阪すまいラボ防災プロジェクトのメンバーでもあります。プロジェクトを立ち上げたきっかけについて本藤さんからご紹介ください。
本藤 大阪府北部地震と台風21号がきっかけです。災害後に情報が溢れる中で、よりスムーズに必要な情報を相談者へ届けるにはどうすればよいかが課題となりました。
補修業者の紹介についての検討、先進事例等のヒアリング、情報発信などに取り組んでいます。住まい情報センターのウェブサイト内に「災害に備えて住まいのためにできること」という情報ページを作成しましたので、多くの人にご覧いただきたいです。
前田 ウェブサイトでは住まいの維持管理を計画的に行うことや、工務店や地域との信頼関係をつくることなど、さまざまな対策を紹介しています。
参加者からいただいた質問にもお答えしていきます。「災害ケースマネジメントでは、行政の立場で取り組めることは何か」という質問です。
菅野 連携してください。例えば、鳥取県や徳島県では行政が主導し、災害ケースマネジメントを検討するための協議会を立ち上げました。協議会には市町村長や社会福祉協議会長、専門士業団体の長(弁護士会、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会、建築士会、宅地建物取引業協会)、相談支援の専門家などが参加しています。それらを調整できるのは行政なのです。
災害のためだけに考えるのではなく、普段の福祉支援の連携の中に、被災者支援の体制整備を含める、フェーズフリー化。災害のことを平時から考える発想が必要です。
専門家との連携、役割分担
前田 「海外の災害復興をみると避難所の環境など日本と大きく違うと感じるが、なぜか」という質問もいただきました。
菅野 国と民間で役割分担をした災害対応をしているからです。例えば、台湾やイタリアでは災害時の対応を民間が担っています。財団やグローバルなNGOやNPOです。国には備蓄をしておくといった責務があります。避難所の運営や備蓄品の配布などはNGOやNPOが担います。
ボランティアについても、専門家は専門家の技術を活かしたボランティア活動を行い、休業補償を国がするという役割分担をしている国があります。例えば、休業補償があるので、シェフは自店を休業しても安心して炊き出しボランティアに参加できるのです。
災害時にはプロに活躍して働いてもらったほうが、公務員が働くよりもよい環境にできるはずです。大阪ではかつて、橋の建設を民間が担いましたよね。
増井 そうですね。かつての近世社会が全て良かったかどうかはわかりません。ただ、生活扶助や戸籍管理など包括的なことに取り組める社会組織が存在していました。町人の連合体でまちが運営されてきた伝統があります。
本当に困った時にはお上に頼るけれど、それ以外は自分たちでなんとかしてきた。平時の相談窓口のようなものがあったのは、幸せなことだったと言えるでしょう。
前田 行政だけでなく、民間と地元の力を使って災害時の対応にあたることが大切なんですね。
本藤 住まい情報センターが実施している事業でも、民間の力をお借りしています。すまいラボ防災プロジェクトでも、ご登壇いただいているみなさんのお力をお借りしています。大阪には民間の強い力があるので、平時だけでなく緊急・災害時にこそ力を発揮できるのではないでしょうか。
日常の身近な繋がりが支えになる
前田 最後に荒木さん、鈴森さん、菅野さんから一言ずつお願いいたします。
荒木 2025年1月で阪神・淡路大震災から30年を迎えます。あの震災は、民間人が自発的に支援に参加した最初の機会でした。建築士たちも手弁当で活動しました。そういった経験の共有や継承が難しくなってきているので、改めて当時のことを振り返る場を設けようと思います。
また、平時から専門家同士のネットワークづくりに取り組みたいです。京都、大阪、神戸と京阪神には3つのすまい・まちづくりに関する情報センターがあるので、平時も災害時も連携することが重要だと考えます。
鈴森 阪神・淡路大震災では日頃から声をかけ合っていた人たちとは、声をかけやすかったです。挨拶だけでも、ほんの少しのとっかかりが災害の時の助けになります。
相談員として一般の生活者のお話を聞いていると、災害の中に日常があり、日常の中に災害があると感じます。人と人をつなぐ一番のベースとなるのは地域社会です。いざ災害が起きた時に声を掛け合えるようにする、相談先がある状況を作っておいていただきたいです。
特に工務店はかかりつけを見つけて、日頃から繋がっておいてほしい。日頃のつながりが大切だということを念頭において、日常を暮らしていきたいです。
菅野 繋がりはとても大切です。突然目の前に現れた人は信用しづらいですが、日頃から繋がっていれば安心できます。孤独にならず、いろんな繋がりを持っておくことが災害への備えとなります。
前田 本日はありがとうございました。
令和6年度三都連携事業シンポジウム 被災後の生活再建と住情報
2024年11月16日(土)13:30~16:00開催
【基調講演】
「混乱し続ける被災後の生活再建―災害ケースマネジメントの展開から考えるー」
大阪公立大学大学院准教授 菅野拓氏
【話題提供】
「防災の視点で見る今昔館 近世から近代へ 」増井正哉(大阪くらしの今昔館館長)
「災害と住まいの相談」兼田暁子(住まい情報センター相談担当)
「大阪すまいラボ防災プロジェクトについて」本藤記子(住まい情報センター企画担当)
【トークセッション】
・コーディネーター
前田昌弘氏(京都大学大学院人間・環境学研究科准教授)
・登壇者
荒木公樹氏(一級建築士、(公社)日本建築家協会近畿支部大阪地域会前地域会長)
鈴森素子氏(NPO法人住宅長期保証支援センター理事長)