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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

朝ドラを彩る建築 内田ゆき NHK大阪チーフ・プロデューサー

 

 NHKの連続テレビ小説、通称朝ドラが、東京/大阪で交互に制作されていることをご存知の方は多いと思います。若い女性が成長していく物語が大半で、大阪局制作の場合、西日本に舞台を求めることが通例となっています。そして最近ではことに、明治・大正・昭和の、  女性の一代記が人気を集めています。

 朝ドラの制作では、スタジオ内に、家屋のセットを建てて撮影を進めます。登場人物がどのような家に住んでいるのか、はとても大切です。どんな気候でどんな立地にあるのか、主人はどんな職業なのか、家事をつかさどる人の動きは、など家の形を定める要素はたくさんあります。それが定まることで、こんどは逆に登場人物の日々の生活、ドラマの細やかな設定が決まります。食事はみんなが一同に集まるのか、台所と茶の間と分かれるのか。寝るのは二階か屋根裏か、または一階の奥の間か。ヒロインの子ども時代の家、結婚したのちの家など、それぞれの間取りや調度がストーリーに大いに影響してくるわけです。

 平成25年に、大阪で朝ドラ「ごちそうさん」を担当した折のことです。ヒロインの杏さん演じる「め以子」は、結婚を機に東京から大阪に引っ越してくる設定でした。そこで、大阪の家屋について、スタッフはイチから勉強することになりました。もともとNHK大阪のドラマスタッフには長年培ったノウハウがありましたが、め以子の夫を建築の専門家と設定した縁から、大阪くらしの今昔館の谷直樹館長にお願いすることができたのです。

 北区に現存する豊崎長屋などを見学させて頂いて、写真を撮影し、お住まいの方にお話を伺いました。お部屋一つ一つを見せて頂き、一年間の生活行事、とりわけ主婦の暮らしを事細かに取材したのです。考えてみれば当たり前のことですが、家々の個性と住人の生活が本当に深く結びついていることに驚き、大変面白く感じました。建具や調度の細やかな意匠にも魅力を感じたことも、よく覚えております。

 現在は、9月30日から放送予定の連続テレビ小説「スカーレット」を担当しています。こちらにも昭和30年前後の大阪の住宅が登場する予定です。ドラマに出てくる建築に、スタッフの苦労と楽しみを垣間見て頂けるところがありましたら、幸いです。

 

「スカーレット」セット 昭和28年大阪市内の住宅。

 

取材した豊崎長屋と路地。