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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

寿温泉(港区) 空間、心意気。

升目状に格子が組まれた折り上げ格天井。

 

 『寿温泉』はモザイクタイルで作られた趣のある看板が目印。建物が完成したのは、1960年。現在大将を務めている2代目今井久治さんが生まれた年だ。それからほぼ改装をしておらず、当時の姿をそのまま残している。「博物館に裸で入る感覚です」とラッキー植松さん。

 入ってみるとまさにその通り。木製のプロペラ扇風機や通称おかまドライヤーと呼ばれる頭にかぶるタイプのドライヤー、当時の地元の商店などの広告が記された壁掛け鏡など、昭和時代へ一気にタイムスリップする。浴室の真ん中には、四方風呂と呼ばれる御影石で作られた浴槽があり、洗い場の床には、石畳とタイルが組み合わされている。各所に石をふんだんに使うのが大阪の風呂屋の特徴なのだと、ラッキー植松さんは語る。他にも、この『寿温泉』の浴室の一番奥には、隠れたお楽しみ風呂も用意されていたりする。

 

浴槽の外側を囲むように腰掛け用の段差。ここに座って浴槽のお湯で体を流すためのものだ。

 

男湯女湯の表玄関の横に前栽があるのは大阪の風呂屋ならでは。

 

 オープンとなる16時。すでに数人の列ができて、馴染みの顔ぶれ同士で、会話が和やかに交わされている。風呂屋は、生活リズムを刻むためのひとつの軸でもあり、地域と人を繋ぐ場所として機能しているのがわかる。風呂屋の役割は、こんなところにもまだ残っている。
 

 近年は、地域から風呂屋が年々少なくなってきている。「家の近所に風呂屋がなくなったからと、わざわざ遠方から自転車で来てくれるお客さんも増えています。必要だと声のある限りは、お客さんが最後の1人になっても、自分たちが動けるうちは営業を続けていきたいですね」と大将の今井久治さんと女将の純子さんは微笑む。当たり前の日常を維持すること自体が、意味のあること。変わりゆく暮らしの中で、変わらない心と身体のぬくもりがここにはあった。

 

大将の今井久治さん(左)。ラッキー植松さん(右)とは、10年来の付き合い。

 

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