館長と歩く、魅力的なミュージアム
対談 平野のまちづくりから学ぶこと
“町そのものを博物館”とする活動「平野町ぐるみ博物館」は26年間続く。大阪でまちづくりを進める秘訣と今後の今昔館について、平野の町づくりを考える会の川口良仁住職と今昔館の谷直樹館長が語ります。
「ええかげん」にやることが大事
- 谷 「大阪市HOPEゾーン事業」でお目にかかって20年以上たちます。今回この町を巡って改めて共感を覚えました。「平野町ぐるみ博物館」のように長く続く運営のノウハウをお伺いしたいです。
- 川口 よく驚かれるんですけど、総会は一度も開いたことないんです。会員会則もなし。各施設のメンテナンスも自費。施設は入場無料。事務局がやる唯一のことは、地図1枚を刷るだけ(笑)
- 谷 各人の采配に任せているんですね。民間だけで15か所運営していて、入場無料というのも珍しいですね。
- 川口 企画はすべてプロジェクト単位です。手を挙げた人がリーダーになって、やりたい人が集まって、終わったら解散。まちづくりは、義務とか責任でやると続かないんですよ。自分の仕事の合間にいつ来てもいい。いつ休んでもいい。会則もないから、興味があれば誰が来てもいい。
- 谷 今昔館の市民ボランティア(町家衆)も、同じスタンスでやっています。興味を持って、関わり合い続けてもらうことが大事ですよね。
- 川口 コツが3つあってね、1つ目が「ええかげん」にやること。決められたことをやるだけではつまらないでしょ。失敗やアドリブにこそ面白さがあるんです。2つ目が「人のふんどし」。黄昏コンサートという音楽イベントを開催した時は、会場費も出演者ギャラも広報費も全部無料で、400名規模のイベントができました。各人が得意分野を担ってやれば無料でできるんですよ。補助金や行政に頼らなくても、住民だけでできるんです。3つ目は「おもろい」やね。おもろいは、関西の文化であり、大きなエネルギーの源です。
自分の町でしか、できないことをやる
- 谷 今、世界のまちづくりの事例を見ていても、行政主導ではなく、住民が一体になって動くという流れがありますよね。
- 川口 2019年9月に、141か国の博物館の専門家が集まるサミット「国際博物館会議(ICOM)」が、日本で初めて京都で開催されました。その地域会場として、平野に白羽の矢が立ったんです。住民自治で体験型のまちづくりをしているのは、平野しかないと。平野の心意気を見せよう!と、すべて自分たちで催しを準備して、終日、海外の方90名をもてなしました。茶道、連歌、生け花などの日本文化の催しに加え、夏祭りのだんじりも二台出しました。だんじり囃子で海外の方も踊ってくれて、住民との交流も自然と起こりました。古くから続くだんじり祭りの文化が、ここでも人と人を繋いでくれました。
- 谷 すばらしいですね。今はネットで情報収集できる時代ですが、それだけでは足りません。まちづくりも国際交流も、地に足をつけて、生身で体感するものが本物。こんな時代だからこそ、人が空間やモノを通して、相互理解していくことが必要で、今昔館としてもここにこだわっていきたいと考えています。
- 川口 だんじり祭りがあるから、平野には強い結びつきが、DNAとして残っている気がします。「温故知新」という諺があります。その反対に、古いものを捨て去って新しいものを作ろうという考え方は、実は間違っています。歴史のないところには、本当の新しさは生まれません。
- 谷 目先の経済からみると、文化は価値を生まないかもしれない。けれど、実はそれが重要で、文化がないと未来に繋がっていかないんですね。
町の風を感じること
- 川口 基本は「まちあるき」です。自分の町を再発見することは、眠っている文化を掘り起こす、宝探しみたいな作業やと思っています。でも一方で、一番難しいのは、住んでいる人に自分の町を知ってもらうことなんです。日々住んでいると自分の町は何もない、つまらないと思いがちなので…。だから、「平野町ぐるみ博物館」のマップもあえてシンプルにしています。分からないから、人に尋ねる。尋ねられた人が実際に町を案内することで、初めてあちこちの魅力に気づくんです。平野は「感風の町」。風を感じる町という意味です。目に見えないものが実は一番大切。ぜひ町を歩いて、町に流れる風を感じて欲しいです。
- 谷 「まちあるき」は、なによりもリアルな空間体験ですよね。コロナ禍で人と人との間が疎遠になっている。こんな時代だからこそ、アフター・コロナの活動を展望する必要があります。今昔館も博物館という立場から、人とモノと空間、そして町をつないでいく結び目として今後もその役割を果たしたい。これからも各施設と連携を強めて、おもろいことを仕掛けていきたいものです。今日は、平野のまちづくり、町ぐるみ博物館のお話をお伺いして、多くのことを学ぶことができました。ありがとうございました。