掌の建築/ミニチュア・ワンダーランド
旅先で感動した風景を切り取って、記念として持ち帰りたいと思う感性は、誰もが持ち合わせているものでしょう。この欲求を満たすべく、私たちは行く先々で記念写真や動画を撮影し、景勝地の絵葉書やマグネットの類を買い求めます。故郷に戻ってそれらを眺めるたびに、旅行中の体験を懐かしく想いだし、同行した家族や友人たちと当時のことを懐かしく語り合うことができます。
建築ミニチュアも同様に、旅の記憶を再現させる契機となる土産物でしょう。私は世界各地の名所旧跡を訪問するたびに、都市のランドマークやその地域の名所のミニチュアを購入することにしています。30 年以上も買い続けた結果、コレクションは800点ほどになりました。
古代文明の遺跡、大聖堂や天守閣、社殿や伽藍、超高層ビル、電波塔や展望塔、駅舎、ミュージアムなどの近現代建築、橋梁やダムなどの土木構築物まで、さまざまな建物やモニュメントのミニチュアがあります。
建築ミニチュアには、時代性や地域の固有性があります。日本では、社寺などで建築をかたどった土鈴が古くから参詣や参拝の土産として販売されていました。いっぽう米国では、銀行などが社屋を新築した際に、竣工の記念品として鋳鉄製の貯金箱を配布したのが、建築のミニチュアをひろく配布した早い事例とされています。
建築ミニチュアの多くは置物として販売されていますが、ペン立てや鉛筆削り、文鎮、ブックエンド、一輪挿し、貯金箱や小物入れ、塩胡椒入れなど、実用的な機能をあわせもったグッズとして作成されたものもあります。なかにはラジオ、オルゴール、時計、酒瓶など建築をかたどった記念品の類もあります。
エッフェル塔や凱旋門、ビッグベン、エンパイアステートビル、サグラダファミリア教会、マリーナベイサンズ、東京タワー、通天閣、名古屋テレビ塔、太陽の塔など、各国の都市を代表する建築のミニチュアを掌にのせ、また棚にならべることで、みずからの好みにアレンジした縮景を、わが家で楽しむことが可能になります。
この夏の企画展では、私と建築ミニチュア収集の同志である遠藤秀平先生、双方のコレクションから厳選した建築ミニチュアを紹介します。あわせて鹿島建設のPR雑誌『KAJIMA』に、写真家川村憲太氏とのコラボレーションで連載させていただいた「ミニチュア・ワンダーランド」のパネル展を併催いたします。
ぜひ会場にお越しいただき、巨人になったつもりで、ミニチュアの世界を旅していただけると幸いです。
掌(てのひら)の建築展 ― 橋爪紳也+遠藤秀平 建築ミニチュアコレクション ―
トークイベント「掌(てのひら)の建築たち イッツ・ア・スモール・ワールド」橋爪紳也×遠藤秀平
※申し込み締め切り2021年7月10日
橋爪 紳也
( 大阪府立大学研究推進機構特別教授)