重文民家で引き継がれる 年中行事がある暮らし
私たちは、お正月、お彼岸、お盆、節句など、四季折々の行事を暮らしの中で引き継いできました。
しかし、生活様式が変化し外国からの文化が入るなかで、住まいの中で四季の行事のお飾りやお供えをすることが減り、年中行事の姿がしだいに変化しています。
一方、歴史的な住宅には、昔からの年中行事の姿を今日に伝えている例が多く見られます。
国指定重要文化財の民家(重文民家注1)・高林家住宅(大阪府堺市)もその一つです。
江戸時代中期から27代に渡り引き継がれてきた高林家住宅では、20数種類の年中行事が行われています。
ここでは、代表的な行事をご紹介します。
◆1月:
百舌鳥精進と呼ぶ正月行事を伝えています。元旦の朝4時に起きて、土間のかまどに火を入れます。
雑煮と精進料理の準備、神様や仏様のお供えなどを男性だけで行うのが習わしです。
200個の餅を用意し、28ある神棚にしめ縄、鏡餅、干し柿などを飾ります。
雑煮を神様・仏様に供えてから、家族揃って正月を迎えます。三が日は三食とも精進料理で、卵や牛乳も一切摂りまん。
7日の七草と15日の小正月には、「おみ」をお供えします。味噌汁に餅とご飯を入れて炊いたものです。炊いた白菜と一緒にお供えします。
15日には、百舌鳥八幡神社の「とんど」へ一年の神事や正月に使った道具を持っていき燃やします。
◆2月:
節分に豆まきをする家庭は今も多いでしょうが、高林家住宅では88カ所で豆をまきます。
◆3月:
お稲荷さんの行事の初午を行います。
鯛、赤飯、油揚げ、餅、かんきつ類、お酒を供えます。庭の不動堂で行うお祭りの「大般若」もあります。
◆8月:
高林家は浄土宗です。お盆の3日間は18品の料理を用意し、お茶を供えます。
お茶の湯気を絶やさないように、一日に20回も取替えます。
また49基のお墓全部に花を供え、お墓参りをします。
◆9月:
秋の名月に合わせ、地元のお祭り・布団太鼓があります。
観月祭のこの日は、縁側にススキを活けて団子をお供えし、月をめでます。
このほか、毎月25日に天神祭のお飾りをします。
菅原道真公を描いた掛け軸を座敷の床の間に掛け、お酒とお米、果物を供えます。
「年中行事がたくさんあって大変ですね」とよく言われるそうですが、「行事を通じて四季を感じることができるのは、とても恵まれたこと。息子夫婦がどう引き継いでくれるかが楽しみ。」と、26代目当主の高林永統さんはおっしゃいます。
コロナ禍で「おうち時間」が増えた今こそ、私たちも年中行事のある暮らしを楽しむ良い機会かもしれませんね。
文:碓田智子(大阪教育大学教授)
話・写真提供:高林永統(たかばやしながつね)(重文・高林家住宅)