アーティストとまちを育む 北加賀屋のまちづくり 住之江区
大阪市住之江区北加賀屋は、大正から昭和にかけて「造船のまち」として栄えていた。
木津川沿いにたくさんあった造船所を中心に、周辺には下請け工場や倉庫がたち、そこで働く人々の住宅でまちができていった。しかし、造船所が相次ぎ撤退し、まちは様相をかえていった。
その北加賀屋が現在は「アートのまち」として新たな輝きを放っている。
まちの再生を行っているのは、この地を拠点に不動産業を営む千島土地株式会社(以下、千島土地)だ。
用途の限られた工業専用地域での土地の転用は難航したが、2 0 0 4 年の現社長の芝川能一(しばかわよしかず)さんとアートプロデューサーの小原啓渡(こはらけいと)さんとの出会いが転機となり、その後アートを中心にしたまちづくりに活路を見出していく。
千島土地の所有する空き家や空き地が、アーティストの制作拠点や共同スタジオなどに転用されることで、さまざまなアーティストが北加賀屋で活動を始めた。
同社の「北加賀屋つくる不動産」では、アーティスト・クリエイター向けの物件を紹介している。「私たちの役割はアーティストと地域のつなぎ目です」と、千島土地の地域創生・社会貢献事業部の福元貴美子(ふくもときみこ)さんは話す。
大規模な展覧会やアートイベントが各地で開催され、アーティストが大規模な作品を制作する機会が増える一方で、その作品を制作、保管するのが難しい現状がある。このような現状を改善するため、巨大倉庫跡地を活用した「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」を始動。第一線で活躍する現代アーティストの大型作品を収蔵し、年に 1 度の公開時には、アートファンのみならず地域住民も会場を訪れる。
アーティスト支援とイベント開催を並走させたまちづくりが功を奏し、現在、北加賀屋在住のアーティストは約 1 0 0 名、表現・創作活動の拠点は40ヶ所を超える。まちを歩まちけばウォールアートに出会い、近所のイベント展示に足を運べば現代アートを楽しむことができる。
アートの情報発信と地域の交流拠点として 2 0 1 7 年に生まれた文化複合施設「千鳥文化」は、近隣住人がリピーターになり、1 階の食堂でくつろぐ様子も日常の風景。
もとは造船所で働いていた人々が住んでいた住居を含む複合施設で当時の住人が自由に改装し、迷路のような物件であった。
このまちを拠点にしている建築家集団株式会社ドットアーキテクツの協力で、当時の面影を残した改修を実施。北加賀屋に残る暮らしの遺産となっている。
「アートが身近な北加賀屋の風景は、他のにはない魅力。親子3代住み続けたいと言われるよう、まちの価値を上げていきたいです」と福元さん。アーティストを育み地域も育む、そんなまちづくりが北加賀屋に浸透しつつある。