今昔館の正月飾り 西王母双鶴図
桃樹の下でその花を手にとる貴婦人と、桃の実の入った籠を手に付き従う侍女。
これらのモチーフから本作が西王母(せいおうぼ)を主題にした作品であることが読み取れます。
西王母は古くから中国で信仰されてきた仙女で、中国の西方、黄河の源にあるとされた仙山・崑崙山(こんろんざん)に住み、不老長寿の薬を持つとされてきました。
もともとは疫病や刑罰を司る半獣神が、秦や漢の時代に流行した神仙説などの影響を受け、後に気高い不死の仙女として描かれるようになったと言われています。
西王母の持つ仙桃は三千年に一度実を結び、それを食べた者に長寿を与えるとされており、長生を願っていた漢の武帝の前に西王母が現れて仙桃七顆を与えた話をはじめ、中国における様々な伝説に登場します。
その姿は日本でも不老長寿のめでたい画題として度々描かれていますが、本作では更に松竹と優美な二羽の丹頂鶴を左右に配した三幅対の構成となっており、吉祥の意味合いがより一層強調されています。
正月から春先にかけて、床の間を飾るのにふさわしい作品と言えるでしょう。
作者の江阿弥(こうあみ)(生没年不詳)は江戸時代中期に活躍した大坂の絵師です。
名は卜信で大岡卜信とも名乗りました。
号は江阿弥、翠松庵、春江。詳しい経歴は不明ですが、延享五年(一七四八)刊行の『難波(なにわ)丸綱目(まるこうもく)』には、「天満小ジマ町」に住む絵師として安村江阿弥の記述があり、本姓は安村氏であったとみられています。
大坂を代表する狩野派の絵師であった大岡春卜(しゅんぼく)(一六八〇-一七六三)に師事し、天明七年(一七八七)の『新撰和漢書画一覧』には、春卜の門人として唯一名前が挙げられるなど、広くその実力が認められていたことが窺えます。
今昔館では本作よりも若い時代の作例として、全六面からなる≪蘭亭曲水宴図襖絵≫(らんていきょくすいえんずふすまえ)を所蔵していますが、この襖絵を含め、現存する江阿弥作品には何歳の時の作が不明なものが多く残されています。
一方、本作の落款には「翠松庵法眼江阿弥行年七十五翁」と明記されており、晩年にあたる七十五歳の制作であることが判明しています。同絵師の画業を語る上でも注目すべき基準作といえるでしょう。
上田 祥悟(大阪くらしの今昔館学芸員)