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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

【初公開】五井金水とゆかりの画家たち

~船場で愛された絵師の画房から~

 

 大阪くらしの今昔館の町家では、床の間に季節に応じた掛軸を、夏祭りの時期には座敷や店の間に屏風飾を再現展示しています。展示に使用するのはレプリカではなく、大阪で江戸時代に活躍した絵師による本物の作品です。座敷空間の中で、当時の暮らしぶりや季節に沿ったかたちで所蔵品を見ていただきたいという開館当初からのこだわりです。

晩年の金水


 今回紹介する「五井金水(一八七九‐一九四二)」は京都の円山応挙(まるやまおうきょ)、呉春(ごしゅん)の流れをくみ、西山芳園(ほうえん)・完瑛(かんえい)をはじめとする大阪の四条派と呼ばれる一派の絵師で、明治から昭和初期にかけて活躍しました。

 

 大阪の四条派の作品は船場地域など、商家の依頼を受けて制作され、愛好されてきました。このことから近年は船場派とも呼ばれます。特に大阪の商家では床の間のしつらいの一部として調和する、清々しく上品な作風が好まれました。

 

「瀧図」 五井金水 昭和6年(1931)絹本墨画 個人蔵


「瀧図」は墨の濃淡のみで、瀑布(ばくふ)の雄大さをすっきりと描きだしています。画面の上方は水の調子が細やかに描かれているのに対し、水が流れ落ちる中盤から下方は余白を大胆にとり、全体に密に書き込まないことで静けさすら感じさせます。

 

「薫風」五井金水 制作年不詳 絹本着色 個人蔵

 

「薫風」は画面の下方に鮮やかな赤色の金魚が一匹、ゆったりと水の中でひれを揺らしながら泳ぐ様が描写され、その右下にかすかに水草の影がみてとれます。

 

 表具(ひょうぐ)にも遊び心があり、中廻(ちゅうまわ)しを観世(かんぜ)水紋様、一文字(いちもんじ)と風帯(ふうたい)はアメンボを配置した裂(きれ)で仕立てられています。夏を迎える床の間に涼やかさを感じさせる作品です。

 


 五井金水愛用の赤箪笥

 

 これらを含む金水の作品約30点を、この度大阪くらしの今昔館で初公開します。これらは、金水の家族が所蔵していたものです。絵画の他に画房『銜翠居』の看板、愛用の箪笥や画材、落款印、そして膨大な下絵類も見どころです。当館所蔵の大坂画壇の絵師による作品もあわせてお楽しみください。

 

 「蔬菜草花魚貝虫類図巻」五井金水 個人蔵

 

金水所蔵の印

 

服部 麻衣(大阪くらしの今昔館学芸員)

 

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