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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

インタビュー 表彰をとおして 都市居住の魅力を 発信する

大阪市ハウジングデザイン賞
選考有識者会議座長
京都美術工芸大学副学長
京都大学名誉教授    髙田  光雄 氏

大阪市ハウジングデザイン賞は「大阪市内における都市居住を促進していくための表彰制度。まちとつながり、まちに住む魅力を引き出す都市型集合住宅を表彰してきた」と髙田氏はいう。現在まで、長年この賞に携わってきた髙田氏の視点から、表彰制度立ち上げの経緯や目的について聞いた。

 

大阪は気候風土、交通や生活の利便性、近隣コミュニティなどが良好で、古くは難波宮の頃から現代に至るまで人々が住み継いできた都市である。第二次世界大戦中に市内中心部は大部分が焼け野原となってしまったが、力強く復興した新しいまちとともに、古いまちなみが残る地域もあり、多様な生活文化が市内各地に蓄積されている。

 

  

とはいえ、戦後復興期から高度経済成長期にかけては、大阪に限らず全国的に、早く安く大量に住宅供給を行うことが強く求められ、低質で画一的な住宅が増え、都市居住の魅力がなくなりつつあった。1970年代に入ると量的な充足が得られたものの、良質な都市型集合住宅はなかなか増えなかったこともあり、住宅政策は量より質を求める流れへと転換すべき時期に入る。

 

1980年代のはじめ、若手の研究者や実務家、行政関係者らが「大阪における都市居住の課題と展望」を議論する場がつくられた。公的住宅中心の住宅政策の見直しや地域性の重視、集合住宅団地の事業コンペ開催、大阪の住まいの歴史研究、住まいの絵本づくりなど、さまざまなアイデアが出された。大阪にはどのような住宅が必要なのか、どんなことができるのかを「とても自由に議論できる場であった」と、当時議論に参加した髙田氏は振り返る。

 

 

大阪の都市居住について交わされた議論は「21世紀都市居住イベント構想(大阪市HOPE計画)」となって結実する。「HOPE計画」は国の住宅制度で、地域特性を踏まえた居住空間を整備することを目的に創設された。大阪市で取り組むにあたっては「都市居住の魅力の創出とその活性化」が基本理念に掲げられた。大阪市ハウジングデザイン賞もこの構想の一環で創設されることとなった。

 

表彰制度設計にあたって、大阪市内にあるマンションの質や類型を把握するための調査を実施した。対象となったのは、1975(昭和50)年から1985(昭和60)年までに大阪市内で供給された民間分譲住宅806件、約6万5千戸。調査に1年、分析に1年という大規模調査となったが、「当時は、表彰するような民間住宅があるのかと心配するほどだったが、調査によって表彰する物件があることがわかった」と髙田氏はいう。

 

民間分譲住宅の調査をする一方で、海外の住宅政策や表彰制度についての調査も行われた。英国の「HOUSING DESIGN AWARDS」からは特に多くの示唆を得たという。当時、英国では、新築住宅は、既存建築物の用途変更や改修、高齢者住宅などの表彰住宅のカテゴリーの一つに過ぎなかったことも驚きであったという。

 

英国では、公共住宅も民間住宅も表彰対象であったが、大阪市ハウジングデザイン賞では民間住宅のレベルを上げるという狙いがあり、対象を民間住宅(共同住宅/長屋/戸建住宅の集合)に絞って実施してきた。髙田氏は「まちの魅力を高めて、まちに住むことを促進する住宅を表彰する制度」だと話す。審査では、集合住宅が立体的な「まち」をつくる要素として計画され、周辺地域と良好な関係をつくっているかどうかが重視されてきた。

 

実は、住まい情報センター大阪くらしの今昔館をつくるきっかけとなったのも、大阪市HOPE計画だった。大阪の都市居住の歴史を紐解く書籍『まちに住まう  大阪都市住宅史』(大阪市都市住宅史編集委員会編/平凡社/1989)刊行によって生まれた研究成果を発信するためのミュージアムづくりが検討された。同時期に住宅情報の総合拠点づくりも検討されており、ミュージアムを有する住まい情報センターの開設につながった。

 

改めて髙田氏に大阪における都市居住の魅力について聞くと「大阪には地域によって異なる文化があり、それぞれに魅力がある。例えば歴史的街並みが継承されているHOPEゾーン事業対象地区の平野、空堀、住吉、天満、船場、田辺など、沖縄文化が根付く大正、韓国など多様な外国文化との共生を目指す生野などだ。大阪には、長い居住の歴史があり、一方で新陳代謝があるのも魅力。それぞれの地域文化を大切にして、魅力を引き出し、住み継いでいくべき。ハウジングデザイン賞を広く知っていただくことで、都市居住の魅力に目を向けてもらいたい」と語った。

 

〈参考図書〉 『未来へ手渡す HOUSING POLICY  大阪  住宅・まちづくり政策史』 (2016年/著者:北山啓三/発行:大阪公立大学共同出版会)

 ※住まいのライブラリーで貸出ししています。ぜひお立ち寄りください。

 

 第36回大阪市ハウジングデザイン賞表彰式

2024年2月18日(日)13:00開催

 

受賞住宅
(上)カサーレ ウエストゲートシティ
(住之江区東加賀屋1丁目) [新築・分譲]
(下)ベイシティ大阪
(港区池島3丁目)[維持管理・分譲]

第36回大阪市ハウジングデザイン賞表彰式を行いました。181件の応募の内、2件が大阪市ハウジングデザイン賞特別賞(特定の分野において特に優れているもの)を受賞しました。

 

住之江区の「カサーレ ウエストゲートシティ」はまちと調和する豊かな緑地環境が設えられたランドスケープデザインが評価され、港区の「ベイシティ大阪」は管理組合と町会の協力による資産の維持管理やコミュニティ活動等への積極的、継続的な取り組みが評価されました。

 

大阪市ハウジングデザイン賞選考有識者会議座長髙田光雄氏から「次年度以降、まちと深く関わる環境的、社会的、文化的持続可能性を追求した提案住宅がより多く応募されることを期待したい」と講評がありました。

 

 大阪市ハウジングデザイン賞について