企画展「船場花嫁物語Ⅱ」レポート
大阪くらしの今昔館では令和5年12月9日~令和6年2月12日を会期として企画展「船場花嫁物語Ⅱ」を開催しました。展覧会の内容をアーカイブにし、あらためて展示の意義を振り返ります。
大阪くらしの今昔館学芸員
深田智恵子
本展覧会は、昭和14年に行われた船場の商家、浮田(うきた)家(次男光治/みつじ)と廣野家(長女カツ)の婚礼を紹介したものです。浮田家は東区北久太郎町(現中央区船場中央)で文庫紙を扱う商家でした。文庫紙とは反物を包む紙で、着物を包むたとう紙よりも厚手のものです。和装が一般的だった昭和戦前期、文庫紙の需要は高く、浮田文庫紙店は京都や名古屋にも店舗を構える大商店でした。一方、廣野家は安堂寺橋(現中央区南船場)の輸出玩具商で、外国人向けの日本土産などを扱っていました。
船場の商家同士の婚礼は、伝統儀礼に従い華やかに行われました。挙式は住吉大社、披露宴は昭和7年開館の日本綿業会館(東区備後町*現中央区)を会場としました。
展示資料は、廣野家が娘・カツのために誂(あつら)えた嫁入り道具の中から着物を中心に構成しました。
船場の商家にとって嫁入り道具は娘への財産分与の意味があり、嫁ぎ先で娘が不自由することが無いように一生分の着物や装身具、身の回り品を調え、その内訳を書き上げた「荷物目録」を添え婚家へと送り出しました。
目録は着物類から書き始められ、「御式服(礼服)」として花嫁衣装に続いて黒留袖、色留袖、訪問着の袷、単衣、絽が合わせて17着。「御略服(普段着)」として、小紋、お召、浴衣などが80着余り。式服用、日常用の帯が合計63本。羽織、コートなど上着類22枚が記載されています。
会場には、花嫁衣装、お色直しの振袖などの礼装のコーナーと、普段着を紹介するコーナーを設けました。また、羽織やコート、帯の他、半襟、帯締め、帯揚げ、帯留め、簪(かんざし)などの和装品の展示もしました。さらに、かつての船場の女性の暮らしぶりが窺える手許箪笥(てもとたんす)や文机などの家具、漆に蒔絵を施した硯箱やワニ皮やビーズのバッグ、切子の化粧瓶類などの手廻り品も展示しました。
嫁入り道具はいずれも素材、意匠、技術ともに贅を尽くした高級品で、船場商家の財力を伺わせるとともに、娘への思いが感じられます。
太平洋戦争に向かって世相が厳しくなりつつあった時代、愛娘の婚礼のために廣野家が調えた華麗な花嫁仕度の品々に、古き良き船場文化に思いを馳せる展示となりました。
きものしおりイベント
企画展のイベントとして、今昔館オリジナル「SDGsきものしおり」を来館者にプレゼントする企画を、今昔館の学芸員、住まい情報センターのライブラリー担当、相談担当が連携して実施しました。
現代のように物が豊かではなかった高度経済成長期以前は、古くなった着物は、仕立て直して寝間着や産着として再利用されました。それも古くなると、おしめや雑巾とし、最後は薪の代わりに煮炊きに使い、残った灰は畑の肥料として、最後の最後まで使い切りました。
「SDGsきものしおり」は今昔館と住まいのライブラリーのボランティアが古着を解いて傷みの無い部分を選んでハギレにし、色柄の組み合わせを考えて手作りしました。古着とは思えないほど可愛らしい「きものしおり」で、SDGsへの関心が広まれば幸いです。