レトロ・ロマン・モダン、乙女のくらし
大阪くらしの今昔館では2024年7月13日(土)~10月14日(月・祝)を会期として企画展「レトロ・ロマン・モダン、乙女のくらし」を開催します。展覧会のみどころを近代の商業デザインの研究家である佐野宏明(さのひろあき)氏にご紹介いただきます。
明治後半から昭和の初めの時代は、西洋化の波を受けて近代化が進み、それまでの男性中心の社会から徐々に脱却して女性が活動的になり、キラキラとした存在感を高めた時代です。服装は着物から洋服へ、髪型も日本髪から束髪、そして斬髪へと変貌し、外出や趣味の機会も増え、生き生きとした華やかな文化への気運が高まりました。
本企画展では、そんな活力あふれる時代のわくわくした雰囲気を、当時の化粧品、日用品、雑貨、広告、雑誌などから存分に味わっていただきたいと思います。得体が知れない甘美なパワーに是非酔ってみてください。
「キュートなパッケージが素敵!」華麗なる化粧品の世界
化粧法はそれまでの白粉と紅を主とした伝統的な厚化粧から、西洋風に多彩になり、品種も増えてTPOに合わせて使い分けられるようになりました。女性をターゲットにした商品の意匠は優美なものが多く、当時欧州で流行したデザイン様式である、アールヌーヴォーやアールデコがいち早く取り入れられ、日本風にアレンジされた和洋折衷型のデザインが人々を魅了しました。女性をモチーフにした図案も多く、色鮮やかでかわいいものが多く見かけられます。
現在も大阪市内に本社のある化粧品会社の桃谷順天館や中山太陽堂(現クラブコスメチックス)が大きな人気を得て躍進しました。資生堂が化粧品分野に本格参入し、デザインに力を入れ始めたのもその頃です。今回の企画展では、桃谷順天館とクラブコスメチックスの出品協力も得ながら当時のパッケージや広告を一堂に会して、圧巻の空間を再現しました。(図1,2)
「今日はお買物、 明日はお出かけ?」広告や付録に見る世相、風俗
当時の乙女(少女)の生活はどのようなものだったのでしょうか? 少女雑誌の付録や広告などでそのシーンを垣間見ることができます。図3は店先で化粧品を選ぶ様子が描かれた団扇絵です。「御遊山、御旅行、御散策に、粋な、上品な・・」とあるのでお出かけ用品のお買い物でしょうか。おしゃれをして出かけていたのでしょう。目の周りの紅も愛らしく、印象的です。
図4の昭和5年に発売された『少女倶楽部』の付録「少女幸福双六」には、運動、勉強、裁縫、お手伝い、愛護など、当時の生活シーンがイラストで描かれています。色んな事が便利ではなかった時代に生きた、少女たちの暮らしぶりに興味を惹かれます。このように当時の史料から日々のくらしの様子を、ひいては世相や風俗を想像してみるのは楽しいものです。
「華宵?虹児?あなたの推しはだあれ?」抒情作家、図案家の活躍
竹久夢二(たけひさゆめじ)を筆頭に、高畠華宵(たかばたけかしょう)や蕗谷虹児(ふきやこうじ)など、抒情作家と呼ばれる画家が登場し、当時流行った少女雑誌の表紙や口絵を飾り絶大な人気を博しました。
その甘くセンチメンタルな美人画には多くの少女の熱いまなざしが向けられていたのです。彼らはまた商業デザインにおいても、才能をいかんなく発揮しており、雑誌の装丁やレコードジャケットの図案などに足跡が残されています。
杉浦非水(すぎうらひすい)や山名文夫(やまなあやお)といった図案家も、三越やプラトン社、資生堂などの企業と組み、アールヌーヴォーやアールデコの影響を受けた華麗なデザインで世間を魅了しました。(図5、6)
「おしゃれさん? それとも、やんちゃ娘?」 モダンガールの登場
大正時代の後半から、髪型を斬髪ボブにし、釣鐘型の帽子をかぶり、ハイカラな洋服をまとった女性が街中を闊歩しはじめました。強い意志を持ち、旧来の慣習や考え方にとらわれず、奔放に人生を謳歌しようとする人たちで、「モダンガール」と呼ばれました。その姿は写真やイラストで、広告や雑誌の表紙などに頻繁に登場します。時代の先端を生きる女性を、広告のモチーフに使うことは訴求効果も大きかったのでしょう。
「モダンガール」と言う概念は現代でも興味を持つ人が多く、それをテーマにした書籍や、企画展などが旺盛で人気があります。古き良き時代への憧れでしょうか。(図7、8)
佐野 宏明(本展監修者・出品者)
企画展「レトロ・ロマン・モダン、乙女のくらし」
2024年7月13日(土)〜2024年10月14日(月)