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10周年記念シンポジウム~問題提起~

投稿日 2009年11月23日(月)
更新日 2009年11月23日(月)

講演「問題提起:大阪市立住まい情報センターは何を目指したか」
高田光雄(京都大学大学院教授)

 高田:みなさんこんにちは、高田です
 問題提起ということで、「大阪市立住まい情報センターは何を目指したか」というお題をいただきましたので、10年前のオープニングイベントでの私の基調講演「まちに住まう−様々な暮らし方をすすめる」の記録を調べてみました。その内容を申し上げて、問題提起に代えさせていただきたいと思います。
 センター創設の約10年前、つまり今から20年くらい前、「住まい情報センター」の構想について、議論をはじめました。どういう時代だったかというと、日本の戦後住宅政策の大きな転換点で、国全体としても改革が求められていましたが、とりわけ大阪、あるいは関西では、先進的な政策論が展開されていました。
 
 
 
 
 
■住宅政策の方針の転換(住まい情報センター創設の背景)
当時、住宅建設中心の「住宅政策」を、住生活に重点を置いた「居住政策」に転換すべきだという議論が盛んに行われておりました。
先ず、1986年に作られた大阪市HOPE計画(大阪市地域住宅計画)で、ハード中心の政策ではなく、もっとソフトな政策に取り組むべきだという議論を既にしてきました。
1993年には、関西ならではの「都市居住シンポジウム」が行われました。大阪市・神戸市・京都市・大阪府・兵庫県・京都府、さらに当時の公団(現UR都市機構)、公庫(現住宅金融支援機構)、あるいは住まい・まちづくりにかかわるNPO、建築家、研究者、住宅産業従事者など、要するに住まいに関連する関西の人たちが一堂に会して画期的なシンポジウムを実施したのです。その中で、居住政策という観点が必要だという議論が定着していきました。居住政策の具体像を検討する過程で、住まいの情報が大変大事だという議論が自然に出てきたように思います。
そして1995年、阪神・淡路大震災が起こった年です。震災復興では住情報の重要性が強く認識されました。

  一方、同じ年に国の住宅宅地審議会答申が出され、戦後行われていた政策を大転換して「市場重視の住宅政策」をすすめるという国の住宅政策の大転換がありました。
この市場重視の住宅政策という文脈の中で、住まいの情報の重要性が一層強く認識されるようになりました。
市場重視の住宅政策の議論では、よく「情報の非対称性」という言葉が使われます。どういう意味でしょうか。市場というのは供給者と消費者が対等に取引する場です。ところが、供給者の持っている商品に関する情報は、消費者の持っている情報よりはるかに多い。一生に何回も買うわけではない複雑で高価な商品である住宅の場合、この問題は一層深刻です。これが非対称性です。消費者が供給者と対等に取引できない状況では市場重視の住宅政策など実現できない。というわけで、消費者の持っている住まいに関する情報をもっと増やさないといけないという議論が出てくるわけです。
消費者に住情報の提供を行うことによって、行政が供給者を規制して弱い消費者を守るのではなく、賢い消費者を育て、あるいは応援することによって、適切な住まい・まちづくりが行われるような体制をつくろう、こういう考え方が徐々に強まっていきました。

  こういう背景の下で、住まい情報センター(以下、センター)は、10年間、事業を展開してきたわけです。実は、10年前の講演で、私は今のような議論を踏まえて、住まいの情報整備には三つの段階あるのではないか、という話をしております。
 
■住情報整備の三段階(大阪市立住まい情報センターの成果)
先ず、第一段階は、住まいと暮らしの総合的な相談窓口の整備です。ワンストップの窓口で、ここへ来たら、住まいの問題は何でも相談できるという場をつくることです。次に、第二段階は、住まいと暮らしの学習の場をつくることです。そして第三段階は、住まいと暮らしの活動拠点・情報拠点をつくることです。こういう話を10年前にさせていただきました。そして、当時は、第一段階がスタートし、第二段階が半分くらいできているという状況だったと認識をしております。現在はどうでしょう。
 
第一段階の相談窓口ですが、一般相談と専門家相談、あるいは、関連団体の相談など多様な相談窓口が開設され、利用者も多く、経験も蓄積されてきたと思います。
 
第二段階の学習の場は、このセンターでいろんなセミナーやイベントをやり、あるいはライブラリーを利用して、市民自らが勉強する機会をつくって賢い消費者を広げていこうという取り組みのことです。さらに、10年前には大阪くらしの今昔館(大阪市立住まいのミュージアム。以下、ミュージアム)はまだ開設されていませんでしたが、ミュージアムの開設を加えて、住まいと暮らしの学習の場がさらに充実してきたということで、いまやこの学習の場としてのセンターの役割は大変大きなものになってきたと思います。
 
そして第三段階は、センターが市民に情報を提供するということではなくて、市民自らが情報を提供し、別の市民がそれを受けて、さらに別の市民に情報を提供するという活動の中心としてこのセンターが活用されるという構想を、将来の期待として10年前にお話をさせていただきました。ところが、この10年の間に、センターではタイアップ事業、あるいは様々な活動支援の制度が生まれ、住まい・まちづくりに関わる市民活動がセンターを拠点に行われることも珍しくない状況になってきました。つまり、10年前にお示しさせていただいた三つの段階が、もう第三段階まできていているようです。しかも相当の蓄積と充実した成果を挙げているというのが今の状況のように思います。
 
今日は、相談、セミナーやイベント、ライブラリーについて、現場で苦労されてきた方々のお話を直接おうかがいすることができると思います。具体的にどのような成果が上がったのか、10年の間に、センターの機能はどのように広がり進化してきたのか、こういう観点でこれから話をお伺いしたいと思っております。
今日、これから行われる三つのパネルディスカッションへの私の期待ということで、10年前の話を引用させていただき、問題提起に変えさせていただきました。情報提供の熱い現場からのメッセージを期待したいと思います。どうもありがとうございました。