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10周年記念シンポジウム~リレートーク③~
リレートーク③「知恵を集める、知恵を活用する ライブラリー活用術」
コーディネーター:弘本 由香里(大阪ガス㈱エネルギー・文化研究所 客員研究員)
パネラー:鶴見佳子(フリージャーナリスト)
森田 多佳子(元住宅相談員、住宅相談アドバイザー)
川幡 祐子(住まい情報センター
住まいまちづくりネットワーク担当主任)
弘本:住まい情報センターの4階に住まいのライブラリー(以下、ライブラリー)があることはみなさんご存知でしょうか。ご利用いただいてますでしょうか。ライブラリーの計画に実は私も携わったんですが、一般的な図書館と違って専門図書館です。住まい・まちづくりに関する専門図書を集めていますが、そこにはどんな想いがあるかといいますと。私たちが何か問題にぶつかったとき、それを解決するためには、相談にいったりセミナーに行ったり、勉強したりするわけですが、それ以外に、更にもっとすそ野の広いところで、いろんな過去の人たちが貯めてきた情報ストックから、大切な情報や知恵を授かって、それを活用していくというようなことをしていくわけです。ですからライブラリーを設けることによって、より多くの方たちの住まいをより良くしていくための行動をサポートしていく。そのために情報によるサポートをしていくためのライブラリーを常時開設しているということです。相談事業は毎日行っていますがセミナーは毎日やっているわけではありませんよね。けれどもその分ライブラリーに行けば、貴重な情報を探して、活かすことができるというような形で、知恵をストックしていって活用していく、そういう場にしていくことを意図しています。
それと同時にライブラリーだけではなくて、知恵を集めて活用して皆さんにお届けするという手法のひとつとして、情報誌を作っていくということにも取り組んでいるわけです。たとえば今日お配りしている「あんじゅ」という住まいの情報誌を作って発行しています。そうした知恵を集めて、知恵を活用する取り組みに従事してきたメンバー3人に、これから少しその想いなどとともにこれまで取り組んできた成果など、これからめざすところですね、聞いていきたいと思っております。
川幡:ライブラリーのことは会場の皆さんはだいたい知ってくださっているようですが、ここは、「住宅」や「大阪」をキーワードにした本を集めていまして、今1万冊の蔵書があります。子どもの絵本もあって、畳敷きのスペースがありそこでゆったり読めるようにもなっています。
また、大阪市関係の情報(無料)もたくさん置いてます。箱物としてはこんな感じなのですが、もうひとつ私どもの特徴が「住まいのライブラリーボランティア」という人たちです。平成16年から募集して、現在60名ぐらい登録され、30名ぐらいがいつも活動しています。当初は図書の整理や貸し出しの支援でしたが(それもすごくありがたいですが)、まち歩きや本ゆかりの作家の話を聞くということをやってるうちに、ボランティア自身でも「まち歩き」を企画するようになってきました。まち歩きの後には、自分たちで歩いたルート図と写真とガイドをパネルにして掲示するといった活動まで、行っています。
先ほどから弘本さんもおっしゃったように、市民は情報を受け取るだけではなくて、それを自分たちの目線で翻訳して市民たちに分かりやすく伝える、興味がわくように伝えるというところにきているかなと思っております。理屈抜きで楽しいということもありますが。
それからマップの関係でいうと、住まいの情報センターのもうひとつの特徴は、地域の情報を載せたマップがすごく充実していることです。例えば自転車マップを集めていますが、ここには自転車で走り易いルートや、逆に走り難いルート、お便所がどこにあるとか、自転車屋さんはどこにあるかといった自転車に関係するマップです。その他には、保育所や高齢者施設がどこにあるかという福祉施設関係のマップなど、情報といっても特定の内容をピックアップして盛り込んだマップというものが、世の中にはたくさんあって、そういうマップをたくさん集めています。ですので、まち歩きするだけではなくて、例えばどこか別の地域に引越したいなあというときに、そういうマップを見てもらって、参考にしてもらえるのかなと思います。以上です。
弘本:ありがとうございます。住まいに関わる書籍はもちろんのこと、大阪に関わる書籍や、それから「動的」な資料として、雑誌や機関紙といったかなり充実したものを置いている訳です。今の川幡さんの報告のように、実際に行動を支援するライブラリーとしての機能がずいぶん拡張してきて、アクティブになって来てる様子がうかがえて、非常にうれしくお聞きしました。
鶴見:今日の資料として、「あんじゅ」09年秋号が入っていたかと思います。このあんじゅは年4回発行しますので、3か月に1回、編集スタッフが集まって企画立案し、その後、取材や原稿作成・校正、印刷というスケジュールで制作していきます。本誌は、今年ならではのテーマを盛り込んだ特集記事、新しい住宅制度や住まいの基礎知識、大阪での暮らし方やまちづくり、住まい情報センターが発信すべき情報など多岐にわたったページで構成しています。
例を挙げると、「住まいの省エネ」を特集しようとしたことがありました。編集会議では、省エネの話をどの専門家にお聞きしたら一番よいのかの検討から入りますが、専門家の話ばかりですと少し難しく、ともすれば学校の教科書みたいになってしまいます。できるだけ市民の目線で制作することを心がけているので、この省エネ特集の時には、マンションのベランダでゴーヤを植えて緑化している人、太陽光発電システムを自宅の屋根に乗せ親子で省エネを楽しんでいる人、代替エネルギーを使った住宅設備を自宅に取り入れた建築家など3人の実例を紹介しながら、エネルギーの専門家のお話をまとめました。こんなふうに、いかに読みやすい情報誌に仕上げていくかに心を砕いています。
住まいにかかわることには専門用語が多く、法律の制度もよく変わります。例えば、「住宅瑕疵担保履行法」が施行されることを伝えるとしましょう。この法律をどこまで知っているか、読者の知識や意識は千差万別で、瑕疵担保という言葉自体を知らなければ、その記事は読んでいただきにくくなります。用語の説明をしながら、この10年間にどのように社会状況が変化してこの法律が施行されるにいたったかなど、わかりやすく読者の目線に立って記事をまとめました。
ライブラリーには、住まいと暮らし、まちづくりにかかわる専門書がたくさんあります。あんじゅの編集のためにも使いますし、私自身の勉強のためにも大変役立っています。ライブラリーのカードは、「貸し出しカード」ではなくて「借り出しカード」というタイトルがついていて、使い手目線だなととても感心しています。
先日も、ライブラリーを訪れ、住まいの空気やにおいに関する書籍を探して借り、読んで勉強し、その上で原稿を書きました。最近の新築マンションには、24時間換気システムが搭載されることが増えましたが、そもそも住まいの中の空気の環境がどうなっているのか、住まいに漂う匂いはどうして発生しているのか基礎的なことがわからなかったからです。こんなふうに私はライブラリーを活用しています。
弘本:ありがとうございました。鶴見さんによるライブラリー活用講座っていうのを、やってもいいんじゃないかな!と、お聞きしながら思っていたところです(笑)。
それでは、引き続き森田さんに、今日資料に同封してあります「住まいの知恵袋」ですが、森田さんには編集にアドバイザーとして関わっていただき、大変たくさんの知恵を提供いただいたときいています。その立場からご紹介いただければと思います。
森田:これが先日できたばかりの住まいの知恵袋です。みなさんのお手元にもあると思いますので、どうぞお手にとってご覧になってください。私は少しだけお手伝いしただけです。
相談は口頭でのやり取りになりますので、どうしても時間がたつと、せっかく聞いた内容を相談された方が忘れてしまったり、自分に都合の良いところだけを覚えていたりとかいうことがあります。後で内容を確認したいというときにこういう紙ものの冊子があると、とても役に立ちますし、こういうものを読んで知識を得ておけば、今後のトラブルの予防にもつながります。
また住まい情報センターでは、相談は一対一で受けますが、よくある相談につきましては、こういう冊子にまとめることでより多くの人に情報を一度に提供できます。またこういう紙ものの良いところは、読みながら線を引いたりだとか、浮かんだ感想などをメモを書き込んだり、自分自身の考えを整理するのにとても便利です。
ライブラリーの所蔵本には書き込めませんので、必要なところをコピーしたものに書き込んでいただきたいですが、以前からこうした冊子をまとめたものがあれば良いなあと思ってましたので、今回住まい情報センターの開館10周年ということで、今までの相談事業のノウハウを結集して、相談者の立場に立って本当に必要な情報を網羅してこの冊子を作られたというのは、本当にとても意味のあることだと思います。中身も私がいうのもなんですがとても充実してますので、実際に制作に関わられました川幡さんから中身についてご紹介いただきたいと思います。
川幡:枚数を多くしたら読んでもらえないかなと、思いながら字はすごくちっちゃくなってはいるんですけれど、枚数を制限して、テーマを絞りました。どういうことを盛り込んだかというと、まず開けてもらうと「住まい情報センター100倍活用術」というものがあります。これは本当に今日のセミナーでしゃべっているようなことを凝縮して、住まい情報センターをどういうふうに活用できるかっていうことを簡単に書いています。。
次の「大阪市制度 よくある質問、1・2・3・4」というのは、大阪市の住宅制度はいろいろありますが、その中で特に問い合わせが多い、あるいは利用が多いものに絞り込んで、制度を紹介しています。例えば、一部を紹介しますと3~4ページの公的な賃貸住宅の中の市営住宅については、家賃や入居の仕方などが実は民間賃貸住宅とすごく異なっているんですね。センターに「市営住宅に入居したい」と相談に最初にこられて、説明を聞いたときに、「えーっ民間の賃貸住宅と全然違う!」と戸惑われる方がすごく多いので、そのあたりの違いだけをエキスにして書いています。
7~14ページには「住宅相談その前に 知っておいてほしい8つの心得」がありますが、住宅を買ったり、借りたりする際の相談内容の中から、センターでよくおうけする相談内容を抜粋しています。画面の表にはセンターでの相談トップ20(平成20年度)というものがあります。本当は大変多岐に渡っていますが、その中のトップ20の中から大事なものをテーマとしています。
「困ったときに聞いてみよう!専門家」では、住まいまちづくりにかかわる専門家の職能を紹介しています。一級建築士、インテリアコーディネーター、弁護士などが、何をするの?何を相談したら良いの?ということが一般の方にはわかりにくい。ということで、それぞれの職能がどういうことをしてるかを簡単にまとめました。
最後の部分には私たちと連携している専門家団体のうち、直接相談してもらうことのできる専門家団体の連絡先と、どういう内容の相談にのってくれるかというのを書いたものです。今後、住宅を買うとき、借りるとき、リフォームするときなどに役立てていただけたらありがたいです。
弘本:私たちが住まいの情報センターの10年間のあいだに取り組んできた相談事業や普及啓発事業を介して、市民のみなさん、専門家のみなさんともコミニケーションしながら、共に得てきた知恵というものが、ここに凝縮され詰まってるな、というのを改めて感じました。ぜひみなさんにも活用していただきたいですし、また知り合いの方にも宣伝していただければと思います。
では、そろそろ時間も押し迫ってきましたが最後の質問になります。ライブラリーを含め市民はこれから情報をどのように使っていったら良いか、これまでもさまざまな工夫を凝らして市民と情報をつなぐツールを開発したり、場を作ったりということに心砕いてこられたわけですけれども、さらにこれからどういうことを目指していくかお気づきの点をお話しいただけたらと思います。それでは森田さんからお願いします。
森田:最初のリレートークの相談活用術とも関連しますが、限られた相談時間を有効に活用しようと思えば、やはりあらかじめある程度の知識を持って相談に望まれることが望ましいと思います。私も以前から相談を受けていて、一定時間の中で、一般的な基本的なご相談でお話しをしていると、住宅相談はどうしても専門的な用語が多いですから相談者の方もだんだん混乱してきて、疲れて終わってしまうということになりがちなんです。それが、一定の知識があるとそれを踏まえたうえで個別の相談に入りやすいので、相談内容も濃いものになりますいし、時間も有効に使えます。そういう意味でも、こちらのライブラリーには厳選されたすぐに役立つ本がたくさんありますので、どんどん活用していただきたいと思います。いろんな情報を取られるときに、例えばインターネット上の書き込み等は、有効な情報である場合もありますけれども、一方では風評にすぎない内容もあり問題になっています。本当に使える情報とそうではない情報を見分ける力をつけるという意味でもライブラリーなどで情報を集めていただいて学習に役立てていただけたらと思います。
鶴見:パソコンで検索すると、さまざまな情報が玉石混こう状態であふれています。あるデータがあって、それを国土交通省が出したのか、大阪市が出したのか、あるいはどなたかがブログで発表したのか。誰が発信しているのかを確かめ、一次情報に当たらなければなりません。原稿を書く上でも、誰が発信した情報かを明らかにしたり、必要に応じて裏付けをとったりします。
今ではパソコンを持つ人が増えましたので、自宅にいながらにして情報を収集できます。便利ですが、欠点もあります。スクロールしていかないと全貌がみえないweb上の情報に対して、「あんじゅ」のような紙媒体は、ページを見開き、一目で見られる良さがあります。
また、ある情報を探っている時には、自分で調べてすぐに答えにたどりつくばかりではありません。情報をよく知っているキーパーソンに出会うことで、答えがみつかることもあります。キーパーソンに出会うためには、普段の交流の場や住まい情報センターのような情報拠点を活用したり、相談窓口を訪れたりすることが大切で、それによって、より早く確かな情報を見つけやすくなります。
高田先生のお話で、情報の非対称性(供給者に対して消費者の情報量が少ないこと)が指摘されました。消費者にも、情報量が多い人・少ない人、情報の質が確かな人・不確かな人という格差が生まれているような気がしています。デベロッパーやハウスメーカーなど住宅の供給側にお話をうかがうと、「最近のお客さんはよく勉強しているんですよ」とおっしゃるんですね。しかし、「勉強してるんですよ」の中身が、確かな情報をもとに勉強したのか、あやふやな情報だったのかという格差はあります。逆に、住宅を購入する時に、ほとんど勉強せず丸腰でショールームへ来る人もいますし、仕事はよくできる人なのに自分が利用する住宅ローンのことはあまりわかっていないとか、中古のメリットは全く知らないまま新築に執着しているとか、特に住まいの情報の格差が大きくついていると感じることも少なくありません。
もうひとつ、情報が収集しやすくなった時代の反映といいますか、細かいことは良く知ってるのだけれど、全体が見えていない人も増えていると思います。情報を得るには、はいつくばってアリの目で探す姿勢と、少し飛び上がって俯瞰する鳥の目で探す姿勢の2つが必要で、二本柱の目線が自分が満足できる住まいを選ぶ上で役立ちます。自分が今、アリの目で探しているのか、あるいはトリの目で探しているのか意識することも必要ではないでしょうか。
多彩なネットワークを活用すると、より良い情報が集まってきます。特別の専門家でなくても「私はこういうことには強いのでこの情報は任せて」という強みを持っていると、他人にその情報を提供することができます。逆に、ある情報に強い人と知り合っておけば、自分がその情報が必要になった時に、その人からもらうことができます。日ごろから、そんな情報のギブアンドテークができる多くのネットワークを築いておくと、より制度の高い情報が自分に集まってくるし、ひいては自分の住まい選びや暮らしの満足度を高める結果に結びつきます。ビジネスの現場で働いている自分、地域社会で生きている自分、どこかのNPOやボランティア団体に属している自分、というように、社会の中で多層的・重層的な自分の居場所を持っていると、より鮮度と精度の高い情報が集まってくると実感しています。
弘本:ありがとうございました。最後のお話は住まいの問題、住まいの情報をめぐる問題を超えて、生き方そのものに関わる問題だと思います。また、多様で重層的なネットワークを持ってるということが情報の質を高めていき、それが自分の住まいの質を高めることに繋がり、地域の質を高める事に繋がる、そういう連続性があるわけです。こうした関係性は、個人というものを中心に見たときもそうですし、また住まい情報センターを拠点としてとらえたときにも、そうした方向を目指していくべきだろうと思います。
今日登場していただいたパネラーの方々とも、常にネットワークを駆使しながらお互いにニーズを見出し共有していく、住まいに関わる専門家同士、あるいは専門家と市民が交わっていく。このようなコミニケーションで得たものを、自分たちの事業にも組み込んでいくということを相互にやりとりしながら、知恵をつむいでいくという作業を10年間やり続け、少しずつお互いが体力をつけ、関係を広げ強めてきました。そのことは、より良質な情報をここから皆さんにお届けする、同時に専門家団体や市民の皆さんから届けていただくという営みであったと、鶴見さん最後のお話を聞きつつ思ったところです。
そのような営みを重ねながら、相互に評価しあっていくということも行われています。そこで相互に評価しあうことで、より社会に価値ある情報を提供し、社会全体として住宅や住生活の質を高めていくということにつながる。そうことを目指してきた住まい情報センターの10年の道筋と、これから目指すところ、そして今いる場所から踏み出す一歩を、改めて確かめる機会がこの場であったと感じております。
リレートーク③「知恵を集める、知恵を活用する ライブラリー活用術」
コーディネーター:弘本 由香里(大阪ガス㈱エネルギー・文化研究所 客員研究員)
パネラー:鶴見佳子(フリージャーナリスト)
森田 多佳子(元住宅相談員、住宅相談アドバイザー)
川幡 祐子(住まい情報センター
住まいまちづくりネットワーク担当主任)
弘本:住まい情報センターの4階に住まいのライブラリー(以下、ライブラリー)があることはみなさんご存知でしょうか。ご利用いただいてますでしょうか。ライブラリーの計画に実は私も携わったんですが、一般的な図書館と違って専門図書館です。住まい・まちづくりに関する専門図書を集めていますが、そこにはどんな想いがあるかといいますと。私たちが何か問題にぶつかったとき、それを解決するためには、相談にいったりセミナーに行ったり、勉強したりするわけですが、それ以外に、更にもっとすそ野の広いところで、いろんな過去の人たちが貯めてきた情報ストックから、大切な情報や知恵を授かって、それを活用していくというようなことをしていくわけです。ですからライブラリーを設けることによって、より多くの方たちの住まいをより良くしていくための行動をサポートしていく。そのために情報によるサポートをしていくためのライブラリーを常時開設しているということです。相談事業は毎日行っていますがセミナーは毎日やっているわけではありませんよね。けれどもその分ライブラリーに行けば、貴重な情報を探して、活かすことができるというような形で、知恵をストックしていって活用していく、そういう場にしていくことを意図しています。
それと同時にライブラリーだけではなくて、知恵を集めて活用して皆さんにお届けするという手法のひとつとして、情報誌を作っていくということにも取り組んでいるわけです。たとえば今日お配りしている「あんじゅ」という住まいの情報誌を作って発行しています。そうした知恵を集めて、知恵を活用する取り組みに従事してきたメンバー3人に、これから少しその想いなどとともにこれまで取り組んできた成果など、これからめざすところですね、聞いていきたいと思っております。
川幡:ライブラリーのことは会場の皆さんはだいたい知ってくださっているようですが、ここは、「住宅」や「大阪」をキーワードにした本を集めていまして、今1万冊の蔵書があります。子どもの絵本もあって、畳敷きのスペースがありそこでゆったり読めるようにもなっています。
また、大阪市関係の情報(無料)もたくさん置いてます。箱物としてはこんな感じなのですが、もうひとつ私どもの特徴が「住まいのライブラリーボランティア」という人たちです。平成16年から募集して、現在60名ぐらい登録され、30名ぐらいがいつも活動しています。当初は図書の整理や貸し出しの支援でしたが(それもすごくありがたいですが)、まち歩きや本ゆかりの作家の話を聞くということをやってるうちに、ボランティア自身でも「まち歩き」を企画するようになってきました。まち歩きの後には、自分たちで歩いたルート図と写真とガイドをパネルにして掲示するといった活動まで、行っています。
先ほどから弘本さんもおっしゃったように、市民は情報を受け取るだけではなくて、それを自分たちの目線で翻訳して市民たちに分かりやすく伝える、興味がわくように伝えるというところにきているかなと思っております。理屈抜きで楽しいということもありますが。
それからマップの関係でいうと、住まいの情報センターのもうひとつの特徴は、地域の情報を載せたマップがすごく充実していることです。例えば自転車マップを集めていますが、ここには自転車で走り易いルートや、逆に走り難いルート、お便所がどこにあるとか、自転車屋さんはどこにあるかといった自転車に関係するマップです。その他には、保育所や高齢者施設がどこにあるかという福祉施設関係のマップなど、情報といっても特定の内容をピックアップして盛り込んだマップというものが、世の中にはたくさんあって、そういうマップをたくさん集めています。ですので、まち歩きするだけではなくて、例えばどこか別の地域に引越したいなあというときに、そういうマップを見てもらって、参考にしてもらえるのかなと思います。以上です。
弘本:ありがとうございます。住まいに関わる書籍はもちろんのこと、大阪に関わる書籍や、それから「動的」な資料として、雑誌や機関紙といったかなり充実したものを置いている訳です。今の川幡さんの報告のように、実際に行動を支援するライブラリーとしての機能がずいぶん拡張してきて、アクティブになって来てる様子がうかがえて、非常にうれしくお聞きしました。
鶴見:今日の資料として、「あんじゅ」09年秋号が入っていたかと思います。このあんじゅは年4回発行しますので、3か月に1回、編集スタッフが集まって企画立案し、その後、取材や原稿作成・校正、印刷というスケジュールで制作していきます。本誌は、今年ならではのテーマを盛り込んだ特集記事、新しい住宅制度や住まいの基礎知識、大阪での暮らし方やまちづくり、住まい情報センターが発信すべき情報など多岐にわたったページで構成しています。
例を挙げると、「住まいの省エネ」を特集しようとしたことがありました。編集会議では、省エネの話をどの専門家にお聞きしたら一番よいのかの検討から入りますが、専門家の話ばかりですと少し難しく、ともすれば学校の教科書みたいになってしまいます。できるだけ市民の目線で制作することを心がけているので、この省エネ特集の時には、マンションのベランダでゴーヤを植えて緑化している人、太陽光発電システムを自宅の屋根に乗せ親子で省エネを楽しんでいる人、代替エネルギーを使った住宅設備を自宅に取り入れた建築家など3人の実例を紹介しながら、エネルギーの専門家のお話をまとめました。こんなふうに、いかに読みやすい情報誌に仕上げていくかに心を砕いています。
住まいにかかわることには専門用語が多く、法律の制度もよく変わります。例えば、「住宅瑕疵担保履行法」が施行されることを伝えるとしましょう。この法律をどこまで知っているか、読者の知識や意識は千差万別で、瑕疵担保という言葉自体を知らなければ、その記事は読んでいただきにくくなります。用語の説明をしながら、この10年間にどのように社会状況が変化してこの法律が施行されるにいたったかなど、わかりやすく読者の目線に立って記事をまとめました。
ライブラリーには、住まいと暮らし、まちづくりにかかわる専門書がたくさんあります。あんじゅの編集のためにも使いますし、私自身の勉強のためにも大変役立っています。ライブラリーのカードは、「貸し出しカード」ではなくて「借り出しカード」というタイトルがついていて、使い手目線だなととても感心しています。
先日も、ライブラリーを訪れ、住まいの空気やにおいに関する書籍を探して借り、読んで勉強し、その上で原稿を書きました。最近の新築マンションには、24時間換気システムが搭載されることが増えましたが、そもそも住まいの中の空気の環境がどうなっているのか、住まいに漂う匂いはどうして発生しているのか基礎的なことがわからなかったからです。こんなふうに私はライブラリーを活用しています。
弘本:ありがとうございました。鶴見さんによるライブラリー活用講座っていうのを、やってもいいんじゃないかな!と、お聞きしながら思っていたところです(笑)。
それでは、引き続き森田さんに、今日資料に同封してあります「住まいの知恵袋」ですが、森田さんには編集にアドバイザーとして関わっていただき、大変たくさんの知恵を提供いただいたときいています。その立場からご紹介いただければと思います。
森田:これが先日できたばかりの住まいの知恵袋です。みなさんのお手元にもあると思いますので、どうぞお手にとってご覧になってください。私は少しだけお手伝いしただけです。
相談は口頭でのやり取りになりますので、どうしても時間がたつと、せっかく聞いた内容を相談された方が忘れてしまったり、自分に都合の良いところだけを覚えていたりとかいうことがあります。後で内容を確認したいというときにこういう紙ものの冊子があると、とても役に立ちますし、こういうものを読んで知識を得ておけば、今後のトラブルの予防にもつながります。
また住まい情報センターでは、相談は一対一で受けますが、よくある相談につきましては、こういう冊子にまとめることでより多くの人に情報を一度に提供できます。またこういう紙ものの良いところは、読みながら線を引いたりだとか、浮かんだ感想などをメモを書き込んだり、自分自身の考えを整理するのにとても便利です。
ライブラリーの所蔵本には書き込めませんので、必要なところをコピーしたものに書き込んでいただきたいですが、以前からこうした冊子をまとめたものがあれば良いなあと思ってましたので、今回住まい情報センターの開館10周年ということで、今までの相談事業のノウハウを結集して、相談者の立場に立って本当に必要な情報を網羅してこの冊子を作られたというのは、本当にとても意味のあることだと思います。中身も私がいうのもなんですがとても充実してますので、実際に制作に関わられました川幡さんから中身についてご紹介いただきたいと思います。
川幡:枚数を多くしたら読んでもらえないかなと、思いながら字はすごくちっちゃくなってはいるんですけれど、枚数を制限して、テーマを絞りました。どういうことを盛り込んだかというと、まず開けてもらうと「住まい情報センター100倍活用術」というものがあります。これは本当に今日のセミナーでしゃべっているようなことを凝縮して、住まい情報センターをどういうふうに活用できるかっていうことを簡単に書いています。。
次の「大阪市制度 よくある質問、1・2・3・4」というのは、大阪市の住宅制度はいろいろありますが、その中で特に問い合わせが多い、あるいは利用が多いものに絞り込んで、制度を紹介しています。例えば、一部を紹介しますと3~4ページの公的な賃貸住宅の中の市営住宅については、家賃や入居の仕方などが実は民間賃貸住宅とすごく異なっているんですね。センターに「市営住宅に入居したい」と相談に最初にこられて、説明を聞いたときに、「えーっ民間の賃貸住宅と全然違う!」と戸惑われる方がすごく多いので、そのあたりの違いだけをエキスにして書いています。
7~14ページには「住宅相談その前に 知っておいてほしい8つの心得」がありますが、住宅を買ったり、借りたりする際の相談内容の中から、センターでよくおうけする相談内容を抜粋しています。画面の表にはセンターでの相談トップ20(平成20年度)というものがあります。本当は大変多岐に渡っていますが、その中のトップ20の中から大事なものをテーマとしています。
「困ったときに聞いてみよう!専門家」では、住まいまちづくりにかかわる専門家の職能を紹介しています。一級建築士、インテリアコーディネーター、弁護士などが、何をするの?何を相談したら良いの?ということが一般の方にはわかりにくい。ということで、それぞれの職能がどういうことをしてるかを簡単にまとめました。
最後の部分には私たちと連携している専門家団体のうち、直接相談してもらうことのできる専門家団体の連絡先と、どういう内容の相談にのってくれるかというのを書いたものです。今後、住宅を買うとき、借りるとき、リフォームするときなどに役立てていただけたらありがたいです。
弘本:私たちが住まいの情報センターの10年間のあいだに取り組んできた相談事業や普及啓発事業を介して、市民のみなさん、専門家のみなさんともコミニケーションしながら、共に得てきた知恵というものが、ここに凝縮され詰まってるな、というのを改めて感じました。ぜひみなさんにも活用していただきたいですし、また知り合いの方にも宣伝していただければと思います。
では、そろそろ時間も押し迫ってきましたが最後の質問になります。ライブラリーを含め市民はこれから情報をどのように使っていったら良いか、これまでもさまざまな工夫を凝らして市民と情報をつなぐツールを開発したり、場を作ったりということに心砕いてこられたわけですけれども、さらにこれからどういうことを目指していくかお気づきの点をお話しいただけたらと思います。それでは森田さんからお願いします。
森田:最初のリレートークの相談活用術とも関連しますが、限られた相談時間を有効に活用しようと思えば、やはりあらかじめある程度の知識を持って相談に望まれることが望ましいと思います。私も以前から相談を受けていて、一定時間の中で、一般的な基本的なご相談でお話しをしていると、住宅相談はどうしても専門的な用語が多いですから相談者の方もだんだん混乱してきて、疲れて終わってしまうということになりがちなんです。それが、一定の知識があるとそれを踏まえたうえで個別の相談に入りやすいので、相談内容も濃いものになりますいし、時間も有効に使えます。そういう意味でも、こちらのライブラリーには厳選されたすぐに役立つ本がたくさんありますので、どんどん活用していただきたいと思います。いろんな情報を取られるときに、例えばインターネット上の書き込み等は、有効な情報である場合もありますけれども、一方では風評にすぎない内容もあり問題になっています。本当に使える情報とそうではない情報を見分ける力をつけるという意味でもライブラリーなどで情報を集めていただいて学習に役立てていただけたらと思います。
鶴見:パソコンで検索すると、さまざまな情報が玉石混こう状態であふれています。あるデータがあって、それを国土交通省が出したのか、大阪市が出したのか、あるいはどなたかがブログで発表したのか。誰が発信しているのかを確かめ、一次情報に当たらなければなりません。原稿を書く上でも、誰が発信した情報かを明らかにしたり、必要に応じて裏付けをとったりします。
今ではパソコンを持つ人が増えましたので、自宅にいながらにして情報を収集できます。便利ですが、欠点もあります。スクロールしていかないと全貌がみえないweb上の情報に対して、「あんじゅ」のような紙媒体は、ページを見開き、一目で見られる良さがあります。
また、ある情報を探っている時には、自分で調べてすぐに答えにたどりつくばかりではありません。情報をよく知っているキーパーソンに出会うことで、答えがみつかることもあります。キーパーソンに出会うためには、普段の交流の場や住まい情報センターのような情報拠点を活用したり、相談窓口を訪れたりすることが大切で、それによって、より早く確かな情報を見つけやすくなります。
高田先生のお話で、情報の非対称性(供給者に対して消費者の情報量が少ないこと)が指摘されました。消費者にも、情報量が多い人・少ない人、情報の質が確かな人・不確かな人という格差が生まれているような気がしています。デベロッパーやハウスメーカーなど住宅の供給側にお話をうかがうと、「最近のお客さんはよく勉強しているんですよ」とおっしゃるんですね。しかし、「勉強してるんですよ」の中身が、確かな情報をもとに勉強したのか、あやふやな情報だったのかという格差はあります。逆に、住宅を購入する時に、ほとんど勉強せず丸腰でショールームへ来る人もいますし、仕事はよくできる人なのに自分が利用する住宅ローンのことはあまりわかっていないとか、中古のメリットは全く知らないまま新築に執着しているとか、特に住まいの情報の格差が大きくついていると感じることも少なくありません。
もうひとつ、情報が収集しやすくなった時代の反映といいますか、細かいことは良く知ってるのだけれど、全体が見えていない人も増えていると思います。情報を得るには、はいつくばってアリの目で探す姿勢と、少し飛び上がって俯瞰する鳥の目で探す姿勢の2つが必要で、二本柱の目線が自分が満足できる住まいを選ぶ上で役立ちます。自分が今、アリの目で探しているのか、あるいはトリの目で探しているのか意識することも必要ではないでしょうか。
多彩なネットワークを活用すると、より良い情報が集まってきます。特別の専門家でなくても「私はこういうことには強いのでこの情報は任せて」という強みを持っていると、他人にその情報を提供することができます。逆に、ある情報に強い人と知り合っておけば、自分がその情報が必要になった時に、その人からもらうことができます。日ごろから、そんな情報のギブアンドテークができる多くのネットワークを築いておくと、より制度の高い情報が自分に集まってくるし、ひいては自分の住まい選びや暮らしの満足度を高める結果に結びつきます。ビジネスの現場で働いている自分、地域社会で生きている自分、どこかのNPOやボランティア団体に属している自分、というように、社会の中で多層的・重層的な自分の居場所を持っていると、より鮮度と精度の高い情報が集まってくると実感しています。
弘本:ありがとうございました。最後のお話は住まいの問題、住まいの情報をめぐる問題を超えて、生き方そのものに関わる問題だと思います。また、多様で重層的なネットワークを持ってるということが情報の質を高めていき、それが自分の住まいの質を高めることに繋がり、地域の質を高める事に繋がる、そういう連続性があるわけです。こうした関係性は、個人というものを中心に見たときもそうですし、また住まい情報センターを拠点としてとらえたときにも、そうした方向を目指していくべきだろうと思います。
今日登場していただいたパネラーの方々とも、常にネットワークを駆使しながらお互いにニーズを見出し共有していく、住まいに関わる専門家同士、あるいは専門家と市民が交わっていく。このようなコミニケーションで得たものを、自分たちの事業にも組み込んでいくということを相互にやりとりしながら、知恵をつむいでいくという作業を10年間やり続け、少しずつお互いが体力をつけ、関係を広げ強めてきました。そのことは、より良質な情報をここから皆さんにお届けする、同時に専門家団体や市民の皆さんから届けていただくという営みであったと、鶴見さん最後のお話を聞きつつ思ったところです。
そのような営みを重ねながら、相互に評価しあっていくということも行われています。そこで相互に評価しあうことで、より社会に価値ある情報を提供し、社会全体として住宅や住生活の質を高めていくということにつながる。そうことを目指してきた住まい情報センターの10年の道筋と、これから目指すところ、そして今いる場所から踏み出す一歩を、改めて確かめる機会がこの場であったと感じております。