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10周年記念シンポジウム「次世代をはぐくむ、住まい・まちづくり」

投稿日 2010年2月22日(月)
更新日 2010年2月22日(月)

 大阪市立住まい情報センター10周年記念イベント

「もっと、ずっと、住みたいまち大阪へ!」

「次世代をはぐくむ、住まい・まちづくり」
 
平成21年11月22日、住まい情報センター10周年記念シンポジウムを開催しました。
「当センターの開設準備期間を含め、20年近くかけて専門家や市民とのネットワークを築いてきた。その輪を今後も広げてほしい」という北山啓三大阪市副市長のスピーチに続いて、狭間惠三子さんの講演と3つの事例報告・ディスカッションが行われ、多くの来場者でにぎわいました。
このシンポジウムの内容を報告します。
  シンポジウム会場風景
 
■第1部
 
講演「子どもをはぐくむ家族と地域」
狭間惠三子
はざまえみこ。サントリーホールディングス(株)大阪秘書室課長、元サントリー次世代研究所課長、(財)大阪観光コンベンション協会情報発信担当部長
    
狭間惠三子 サントリーホールディングス(株)大阪秘書室課長 総力を挙げて
子どもの自己肯定感を育むプロセス作りを
 
これまでの調査・研究の中から、今、子どもが抱えている課題を報告する。
社会が豊かになり、子どもたちの周囲には小さいころからいろいろなものが揃っている。どんな生き方も選べるはずなのに、何をしたいかわからない、迷っている若者は多い。大人もそうだが、デジタルな数字や世界のニュースを理解できても、自分の五感で判断したり、身近な人の悩みにはなかなか気づかないといった状況である。小学生のうちは元気で夢いっぱいなのに、中学生になると何もやりたくないと言う女の子が約8割いて、意欲の低さが気になった。
友達との間もゲームや携帯電話などが介在し、お金がないと友だちと過ごせないという子が多く、何もなくても遊べるという子が少ない。友だちとは仲良くつきあうが、嫌がることは言わないし、自分の悩み事は話さない。小学生の87%、中学生の92%が約束なしで友だちと遊ばない。それぞれ忙しく、遊び場の制約もあるが、ふらっと友達のところへ遊びに行けない、管理された時間でないと動けないといった状況は少し問題ではないか。
 親と子の関係は横並びで、“友だち親子”が増えている。子どもが高額なものをほしがれば8割程度の親は買い与えている。小学生の子どもが化粧をしたいと言っても「学校が休みの時にしなさい」と答え、なぜダメなのか説明や注意をしない。成績が上がったり、お手伝いをした時にはご褒美にお金を渡すことも。子どもは結婚しなくて良い、ずっと一緒に暮らしたいと言う親もいる。親が老い、先立つことを考えれば、子どもには一人で生きる力、自分で決めていく力を持たせなくてはならないのではないか。
食事の時には家族そろわず、子ども一人で食べているケースも少なくない。友だちの家で一緒に食事をしたことのない子も多く、嫌いな物でもつられて食べたり、よその家庭の食卓を味わったりといった、経験や情報が不足している。親と先生以外の大人に会う機会が少なく、家族が閉じられているように感じる。
家族関係について国際調査をしたところ、「子育ては大変だが人生を豊かにする」と答えた外国人は多かったが、わが国の親は「子育ては本当にしんどい」と答える。ニュースでも子育ての費用や虐待問題など大変なことばかり報道されている。いま一度、家族の意味を見つめ直す必要があるし、父母ともに社会生活と家庭生活の両方で充実する人生を送ることが大切だ。
 大阪市の小中学生は全国平均に比べ、自己肯定感が低いという結果が気にかかる。自分には良いところがある、目標を持ってやれば夢がかなう・・と子ども自身が思えるよう、親も学校も地域も企業も社会総がかりで子どもが力を発揮できる場を提供し、プロセスを作る取り組みが必要だ。子どもが自分で感じとれる力をつけ、いろいろな大人がいることを知り、そんな大人が自分を見守ってくれているという安心感や信頼を積み重ねていく。そして大きくなるにつれて自分も何かの役に立てると思えるよう、子どもたちの自己肯定感を育んでいきたいと思う。
 
 
■第2部 事例報告とディスカッション
子どもを育む現場で活躍する3人の事例報告を聞いた後、大森敏江甲南女子大学教授とのディスカッションに移った。
 
事例報告1 「子どもたちに日本の住文化を伝えるために」
〜今昔館と提携した住文化体験型イベントの実践から〜
碓田智子
うすだともこ。大阪教育大学教育学部教養学科准教授
 
  碓田智子 大阪教育大学教育学部教養学科准教授 
多世代を巻き込みながら
子どもたちに住文化の継承を
 
 「大阪くらしの今昔館(住まいのミュージアム)」を会場に、ボランティア「町家衆」の手を借りながら、大阪教育大学の学生たちとともに、子どもたちに伝統的な“住まいの文化”を体験してもらうタイアップ事業を企画した。
 平成19年度には夏休みの2日間、子どもたちに浴衣を着てもらい、江戸時代の町並みを歩き、町家でお茶会や掃除、障子貼りなどを1日体験してもらった。夜の暗さを味わってもらい、きもだめしも企画。平成20年度には、町家で夕食を食べた後、一泊のお泊まり体験も実施した。イベント後には、これらの体験が子どもたちの生活にどんな印象をもたらしたかを調べ、検証している。町家衆のみなさん、大学生、子どもたちが、自然に交流できるのが体験イベントの魅力である。
 ほうきとはたきを使っての掃除や障子張り、和室での夕食、夜の暗さ・・どれも、少し前まで私たちの暮らしの中にあった。学校で習わなくても家庭の中で何となく伝わってきたことばかりだ。だが、今の子どもたちにはそれらが伝わっていないし、大学生でも「納戸」や「鴨居」が読めなかったり、1坪や1間がどのぐらいのサイズか知らなかったりする。
 高校生や大学生など若い人に参画してもらうことはなかなか難しいが、これからも子どもから高齢者までが交わりながら、伝統的な住文化を伝える活動を積みあげていくことで、次世代への生活文化の継承につながればと思う。
 
 
事例報告2 「楽しみながら防災を学ぶ,体験型プログラム」
〜「イザ!カエルキャラバン」から〜
永田宏和
ながたひろかず。NPO法人プラス・アーツ理事長 
 
永田宏和 NPO法人プラス・アーツ理事長  子どもの生きる力を
地域ぐるみでつくりあげる
 
 阪神大震災から10年たった頃、神戸市を中心とする実行委員会から依頼され、楽しみながら学ぶ防災教育プログラム「イザ!カエルキャラバン!」を企画した。子どもに不要な玩具をもってきてもらい、それを査定してカエルの顔の「カエルポイント」スタンプをカードに押し、その「カエルポイント」で別の玩具を買い物できる。よい玩具は最後にオークションにかけるので、子どもたちは最後まで帰らない。その間に、消火器を使う訓練をしたり、ゴミ袋や新聞紙など身の回りのもので簡易食器を作ったり応急手当を学んだり、紙芝居や人形劇で防災の知恵を伝えていく。
 教育には、学ぶ場を作ることが大切。その際には「楽しさ」が重要で、楽しければ子どもたちは自主的に頭と体で覚えていくものだ。当時、神戸の7か所で10日間キャラバンを行い、のべ7050人を動員した。その後、このプロジェクトは全国に広がり、町内会やPTAなど地域の人が加わってアレンジされ、インドネシアでも人気の高いプロジェクトとして独自に発展している。
 防災教育は地域のコミュニケーションやふれあいを学習する機会でもあり、ものを大事にする環境学習の場としても役立つ。総合的な教育の場となり、子どもたちの生き抜く力をはぐくむとともに、崩壊しつつある地域コミュニティを活性化する可能性も秘めている。街づくりには、いつも同じ顔ぶれではなく、新しい人も加わっていくといい。そのためには人をつなぐ仕組みや、行政と市民の中間で支援する組織も必要だ。
 
 
事例報告3 「地域に根ざした子ども支援」
〜市営住宅を活用した、子ども相談室「ぽぴんず」と子どもサポータークラブ「よっしゃ」の活動から〜
西川日奈子                                    
にしかわひなこ。NPO法人西淀川子どもセンター代表理事
 
  西川日奈子 NPO法人西淀川子どもセンター代表理事  
子どもたちを守るために
大人が集まる場づくりを
 
子どもへの暴力を防ぐCAPというプログラムを続けて14年。被害に遭わないためにどうしたらいいか、どうしたら安心して生きていけるか、人権意識とコミュニティ概念を軸にして、子どもたちやその周辺の人々に伝えてきた。が、子どもが気軽に相談したり、駆け込んでこられる場所がもっと必要である。そんな折、大阪市のコミュニティプロポーザル事業に(2008年に)応募し、西淀川の市営住宅の空き室を借りて、事務局と子ども相談室「ぽぴんず」を開設することができた。子どもが来ない時間帯も利用して、毎月ネイルケアサロン等を開き、地域の人々に子どもたちの置かれた状況を伝えるようにしている。
 子どもを支援する大人を増やすため、地域連続セミナーを実施しながら、子どもサポータークラブ「よっしゃ」事業も推進している。賛同者らから寄贈された絵本の活用や地域バザー、イベントなど活動の場が広がってきた。
家庭・学校・地域社会などの課題が複雑にからみあった、子どもたちの悩みは見えにくい。地域の中では「お互いをよく知らない」ためのストレスや不安が大きい上、個人情報保護法の下に、ままならない状況も。そんな閉塞的な社会に対抗できるのは、わたしたち一人ひとりの「自己開示力」。地域のおっちゃん、おばちゃんが「私はここにいる」「子どもの力になりたい」と気持ちを示す。その気になっている大人を感じとる「子どもたちのアンテナ」はすばらしい。
 子どもたちが自分らしく生き、生まれてきてよかったと思えるように、目の前の子どもを支援できればうれしい。どんな言葉を子どもにかけるか、まず素朴な出会いの中で子どもとの関係性は自然に変わっていく。子どもたちの健やかな成長を支えるために、地域での民間活動をしっかり支援する仕組みや予算を、行政には望む。
 
 
■まとめ
 パネルディスカッション風景
 
 
コーディネーター 大森敏江
おおもりとしえ。甲南女子大学人間科学部生活環境学科教授
 
  大森敏江 甲南女子大学人間科学部生活環境学科教授  
子どもを育む力の
バージョンアップを
 
 子どもに住文化を継承していく取り組みには、碓田先生やスタッフの企画力や実践力によるところが大きいが、「大阪くらしの今昔館」の施設、環境など、「場」というものが果たす役割の大きさも実感した。震災の経験がない子どもたちの防災意識を高めるユニークで楽しい方法で成果を上げた永田さんの報告では、地域コミュニティの活性化が町づくりに必要不可欠であることを再認識させられた。西川さんには、子どもたちの心に寄り添ってその悩みや希望を受け止める人の存在の大切さとともに、市営住宅の空き室が、地域の子育て力を高める為の場の一つとして有効活用できることを示していただいた。
3つの報告の多彩さからうかがえるように、次世代を育むまちづくりや取り組み方に定番はなく、地域の実情や資源に合わせて多様なアプローチができる。問題解決型の活動に留まらず、生活文化の発展的継承と創造、地域コミュニティの再生・活性化などさまざま可能性を実感できた。このような取り組みがさらに広がり、バージョンアップしていってほしい。