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大阪市立住まい情報センターシンポジウム「マンションの未来を考える」第1部
大阪市立住まい情報センターシンポジウム
大阪市マンション管理支援機構設立10周年記念
「マンションの未来を考える
〜海外の集合住宅事例から見るマンションストックの活用〜」
大阪市マンション管理支援機構が設立されてから10年となるのを記念し、平成22年10月30日に大阪市立住まい情報センターで、「マンションの未来を考える」と題するシンポジウムが行われました。イギリスやフランス、韓国、中国など外国の集合住宅の多様な事例を聞きながら、わが国のマンションの未来とストックの活用を考えようと、満席の会場は熱っぽい空気で満たされました。
第1部 成熟期を迎えたヨーロッパの集合住宅事例から
京都大学大学院教授 高田光雄さん
まず、10周年をむかえられました大阪市マンション管理支援機構に対して、心からお祝いを申し上げます。
さて、大阪市では、世界の大都市と同様、高経年集合住宅の管理や再生が大きな課題となってきています。本日は、長い集合住宅の歴史をもつヨーロッパ、とりわけロンドンとパリでの調査結果を下に、高経年集合住宅における暮らしの実態、集合住宅団地の管理や再生の諸問題などを紹介し、マンションの未来を考えるヒントを探ってみたいと思います。
ロンドンは面積約1600㎢、人口約730万人の大都市で、大阪市の7倍程度の面積に3倍程度の人が住んでいます。1950年代から、公営住宅を中心に高層住宅が建ちはじめ、60年代にさらに大量建設が続き、70年代に収束しました。近年、再び高層住宅が増加していますが、それらは富裕層向けの民間住宅です。68年にローナンポイントの高層公営住宅でガス爆発が起こり連鎖的に多くの住戸が崩壊し、高層住宅への批判が高まりました。その後、公営住宅団地のバンダリズムが激化し、その中で高層住宅の防犯性能の低さが問題ともなりました。
70年代までに竣工した高層公営住宅は、現在までに10%強が解体され、4%強が改修されています。また、高層住棟を含む52の公営住宅団地が、高層住宅の解体や改修を伴う再生を行っています。これらの団地再生の実態は後ほど紹介しますが、高層住棟だけでなく、地域全体の安全・安心を高める総合的な取り組みが個々の地域に即して行われている点が注目されます。
一方、パリでは、約100㎢の面積に210万人が暮らしています。大阪市の半分程度の面積に8割程度の人が住んでいることになります。全住宅の99%が集合住宅で、持家が約1/3、借家が約2/3となっています。借家には社会住宅と民間借家がありますが、後者の多くは区分所有のアパルトマンが借家化したものです。後ほど都心の高経年集合住宅の暮らしを紹介して、居住の質について考えたいと思います。
また、パリには、ガルディアンという伝統的な管理人がいますが、近年、深刻な管理問題を経験した社会住宅において、イギリスのオクタヴィア・ヒルの管理思想の再評価が見られます。これもふまえて、持続可能な居住を支える管理の仕組みを考えていきたいと思います。
事例報告1
イギリスにおける既存高層集合住宅と改修
報告:京都大学大学院生 岡本陽平さん
1950年代から70年代にロンドンで建設された高層公営住宅930棟のうち、現在までに26棟が改修、94棟が解体されています。これらを団地単位でみると、52の団地で再生事業が行われており、そのうち18の団地再生で、何らかの形で高層住棟の改修が行われております。これらの団地について今年の1月と9月に実施した現地調査の報告をします。
団地全体で防犯設計が行われている団地
ナイチンゲール団地は、22階建て住棟6棟と、8階建て、2-5階建て住棟群からなる公営住宅団地です(総住戸数:再生前937、再生後1080)。
97年に始まった再生事業で高層住棟5棟だけが改修され、5棟は解体されました。高層住棟の改修ではほぼ全設備の取り替え(EV、窓、水回り、空調、防音・断熱設備、配管など)を行い、バルコニーを室内化し、6階以上では3寝室を2寝室へ間取変更し、地上エントランスにコンシェルジュ(管理人)が24時間常駐するようになりました。
高層住棟の解体後は、テラスハウスや中低層共同住宅に建て替えられ、1階住戸には専用庭が設けられています。高所得層も入居しており、階層は多様化しています。
8階建て住棟については、一部の廊下と住戸を減築することで、団地の閉鎖感を解消しました。また地上に1階住戸の専用スペースを設けることで領域性が確保されています。
高齢者専用の高層住棟となった団地
ホリーストリート団地は、19階建て住棟4棟と、5階建て住棟群からなる公営住宅団地です(総住戸数:再生後859)。
93年に始まった再生事業で、高層住棟1棟は高齢居住者からの要望もあり改修し、居住者を50歳以上に制限した住宅となりました。コンシェルジュも配置しています(24時間)。
残りの中高層住棟はすべてテラスハウスや中低層共同住宅に建て替えられました。民間開発も行い高所得者層を呼び込んだため、ソーシャルミックスが実現しています。
ホリーストリート団地
団地内の高層住棟全てが改修される予定の団地
バウクロス団地は25階建て3棟と、低層ハウス群からなる公営住宅団地です。現在、再生事業が行われている途中で、高層住棟1棟は改修を終え、残り2棟も近い将来、改修される予定です。高層住棟の改修では、コンクリートの構造体を除く壁体や全設備が取り替えられ、地上エントランスにはコンシェルジュが配置され(7-19時)、子供の遊び場や管理事務所なども設置されました。
バウクロス団地
保全登録されている高層住棟をもつ団地
ブラウンフィールド団地は、28階建て住棟、14階建て住棟、11階建て住棟、中低層住棟からなる公営住宅団地です。3棟の高層住棟はイングリッシュ・へリテージ(歴史的建造物を保護する目的で設立された組織)にグレードIIとして保全登録されており、解体・増築・改造には自治体の許可が必要です。28階建て住棟はいずれ改修が行われる予定です。
ブラウンフィールド団地
多くの事例でみられた共通点として、再生前には住宅性能や治安などの安全面で大きな問題があり、再生にあたっては、庭付き接地型住宅を望む声が大きかった一方で、高層住棟の改修を望む声も一部でありました。再生後は、改修後の高層住棟は設備やサービス向上によりセキュリティが改善されており、高層住棟の解体後はテラスハウスや中低層共同住宅に建替えられ、高所得者層を呼び込むなどのソーシャルミックスも図られています。
団地再生の主な目的は「居住性能の向上」と「安全面の向上」であると考えられ、前者はストックの物理的な改善やソーシャルミックスにより実現されており、後者はバンダリズム(公共物の破壊・汚染する行為)対策として団地全体で防犯設計を行うことで実現されています。これらの実現条件は団地によって異なり、各団地が持つ様々な事情を総合的に考慮した上で、高層住棟の改修もしくは解体が決断されていると考えられます。
事例報告2
フランス首都圏の既存集合住宅とその管理
報告:京都大学大学大学院生 関川 華さん
フランス首都圏の集合住宅(アパルトマン)には19世紀に建てられたものが多く含まれています。当時、エレベーターはついていませんので、階段の昇降の負担がない下階には裕福層が、上階に行くほど相対的に貧困層が住んでいました。そのため、同一の住棟に異なる階層の世帯が重層的に居住し、集合住宅の管理を居住者自身が共同して行うことが難しい状況がありました。
このような歴史を背景として、フランスの首都圏において集合住宅の管理のルールが発展してきたわけです。運営管理は、区分所有者全員で構成される区分所有者組合(サンディカ)、区分所有者組合の代表である組合管理会(コンセイユ・サンディカル)、管理者(サンディック)という三者によって行われます。実質的な管理業務の実施は住宅管理人であるガルディアンが行います。ガルディアンは、集合住宅の共同空間を見守ったり、短時間ながら子守りを引き受けたり、郵便物の配達をしたりします。
一方、フランスでは、2つの世界大戦後に起きた住宅危機に対して、多量の住宅供給が行われました。それを機に、集合住宅の所有権の改革や社会住宅の新規供給が行われました。現在では、19世紀及び20世紀に建てられた既存ストックの老朽化が進んでいます。これらの管理現状について事例を提示しながら報告します。
フランス初の社会住宅
1853年に建設されたフランスで最初の国主導型の社会住宅がシテ・ナポレオンです。ガルディアンのための空間が社会住宅に設置された初めての事例でもあり、オクタヴィア・ヒルの思想が表れていると言われます。もともとは労働者向け住宅でしたが、現在は一般の賃貸住宅になっています。1階にはガルディアンが常駐するための管理人室が配置されています。
シテ・ナポレオン
改修してストックを活用している社会住宅
13区のオピタル通り137番地にある社会住宅(409戸)は1926年に建設され、歴史のある住棟の外観は保全し、85年前のスケルトンも残したまま、老朽化したインフィルを入居者が居住したままで改修しました。建設当時共用だったシャワーは専用化され、各戸にシャワー室が設置されました。また、入居者が退居するたびに公社が内装を改修し、現在は常駐の管理人も配置されています。こうした改修を重ねながら持続的にストックを活用しています。
オピタル通り137番地
バンダリズムの防止
13区のオピタル通り122番地の社会住宅(543戸)は、1969年に竣工しましたが、その後バンダリズム(公共物に対する破壊行為)に起こりました。98年から2001年にかけて共同玄関や外部空間を整備し、ガルディアンを配置しました。このような工事で広い敷地を区分し、各階段室の居住者の領域性を確保することによって、住宅に愛着を持ち易い状況をつくり、バンダリズムを防ごうとしています。
12区のラペ通り38番地の社会住宅は建て替えの事例です。既存の中層住宅を、各戸に30㎡の大きなバルコニーがある高層住棟へと建て替え、さらに、接地型の低層住棟を新しく建設する予定です。多様な形態の建物を含む団地の再生事例です。居住空間の規模は、高層住棟の2寝室プランの場合、80㎡(バルコニーは別に30㎡ある)。シンクと給排水管のみ設備し、あとの設備は自分で設置します。ここにもガルディアンが配置されています。
オピタル通り122番地
都心区分所有集合住宅
最後の事例は、都心にある区分所有集合住宅です。7区のロビアックスクエアに築160年7階建てのアパルトマンがあります。区分所有者組合の理事長の自宅が6階にあり、最上階にはペントハウス、住棟の一部には店舗が入り、それらを束ねる区分所有者組合があります。1階には管理人室があり、ガルディアンがいます。ガルディアンの配置に関しては、一般の集合住宅は社会住宅と共通していますが、ガルディアンの発生時期は社会住宅より早く、ルーツも異なります。住戸には4つの寝室、サロン、ダイニングがあり、共有空間である中庭に向けては洗濯物をほしてはいけないなどのルールもあります。
パリ都心集合住宅
フランス首都圏の区分所有集合住宅では、区分所有者や専門家で構成される運営管理組織と、維持管理業務の実施を担う主体(ここでは伝統的な住宅管理人、ガルディアンを紹介)がいます。社会住宅では、60年代までに大量供給した既存ストックの老朽化に対して、部分的な建物修繕や設備機器等の新設や改善による居住水準の向上が図られていました。さらに、公共物の破壊行為に対しては、領域性の確保や対人サービス(ガルディアンの配置)によって防止策を講じています。また、居住者のソーシャルミックスを図るため、より階層の高い居住者の呼び込みに対応した住宅を建替えによって実現している事例も認められました。
大阪市立住まい情報センターシンポジウム
大阪市マンション管理支援機構設立10周年記念
「マンションの未来を考える
〜海外の集合住宅事例から見るマンションストックの活用〜」
大阪市マンション管理支援機構が設立されてから10年となるのを記念し、平成22年10月30日に大阪市立住まい情報センターで、「マンションの未来を考える」と題するシンポジウムが行われました。イギリスやフランス、韓国、中国など外国の集合住宅の多様な事例を聞きながら、わが国のマンションの未来とストックの活用を考えようと、満席の会場は熱っぽい空気で満たされました。
第1部 成熟期を迎えたヨーロッパの集合住宅事例から
京都大学大学院教授 高田光雄さん
まず、10周年をむかえられました大阪市マンション管理支援機構に対して、心からお祝いを申し上げます。
さて、大阪市では、世界の大都市と同様、高経年集合住宅の管理や再生が大きな課題となってきています。本日は、長い集合住宅の歴史をもつヨーロッパ、とりわけロンドンとパリでの調査結果を下に、高経年集合住宅における暮らしの実態、集合住宅団地の管理や再生の諸問題などを紹介し、マンションの未来を考えるヒントを探ってみたいと思います。
ロンドンは面積約1600㎢、人口約730万人の大都市で、大阪市の7倍程度の面積に3倍程度の人が住んでいます。1950年代から、公営住宅を中心に高層住宅が建ちはじめ、60年代にさらに大量建設が続き、70年代に収束しました。近年、再び高層住宅が増加していますが、それらは富裕層向けの民間住宅です。68年にローナンポイントの高層公営住宅でガス爆発が起こり連鎖的に多くの住戸が崩壊し、高層住宅への批判が高まりました。その後、公営住宅団地のバンダリズムが激化し、その中で高層住宅の防犯性能の低さが問題ともなりました。
70年代までに竣工した高層公営住宅は、現在までに10%強が解体され、4%強が改修されています。また、高層住棟を含む52の公営住宅団地が、高層住宅の解体や改修を伴う再生を行っています。これらの団地再生の実態は後ほど紹介しますが、高層住棟だけでなく、地域全体の安全・安心を高める総合的な取り組みが個々の地域に即して行われている点が注目されます。
一方、パリでは、約100㎢の面積に210万人が暮らしています。大阪市の半分程度の面積に8割程度の人が住んでいることになります。全住宅の99%が集合住宅で、持家が約1/3、借家が約2/3となっています。借家には社会住宅と民間借家がありますが、後者の多くは区分所有のアパルトマンが借家化したものです。後ほど都心の高経年集合住宅の暮らしを紹介して、居住の質について考えたいと思います。
また、パリには、ガルディアンという伝統的な管理人がいますが、近年、深刻な管理問題を経験した社会住宅において、イギリスのオクタヴィア・ヒルの管理思想の再評価が見られます。これもふまえて、持続可能な居住を支える管理の仕組みを考えていきたいと思います。
事例報告1
イギリスにおける既存高層集合住宅と改修
報告:京都大学大学院生 岡本陽平さん
1950年代から70年代にロンドンで建設された高層公営住宅930棟のうち、現在までに26棟が改修、94棟が解体されています。これらを団地単位でみると、52の団地で再生事業が行われており、そのうち18の団地再生で、何らかの形で高層住棟の改修が行われております。これらの団地について今年の1月と9月に実施した現地調査の報告をします。
団地全体で防犯設計が行われている団地
ナイチンゲール団地は、22階建て住棟6棟と、8階建て、2-5階建て住棟群からなる公営住宅団地です(総住戸数:再生前937、再生後1080)。
97年に始まった再生事業で高層住棟5棟だけが改修され、5棟は解体されました。高層住棟の改修ではほぼ全設備の取り替え(EV、窓、水回り、空調、防音・断熱設備、配管など)を行い、バルコニーを室内化し、6階以上では3寝室を2寝室へ間取変更し、地上エントランスにコンシェルジュ(管理人)が24時間常駐するようになりました。
高層住棟の解体後は、テラスハウスや中低層共同住宅に建て替えられ、1階住戸には専用庭が設けられています。高所得層も入居しており、階層は多様化しています。
8階建て住棟については、一部の廊下と住戸を減築することで、団地の閉鎖感を解消しました。また地上に1階住戸の専用スペースを設けることで領域性が確保されています。
高齢者専用の高層住棟となった団地
ホリーストリート団地は、19階建て住棟4棟と、5階建て住棟群からなる公営住宅団地です(総住戸数:再生後859)。
93年に始まった再生事業で、高層住棟1棟は高齢居住者からの要望もあり改修し、居住者を50歳以上に制限した住宅となりました。コンシェルジュも配置しています(24時間)。
残りの中高層住棟はすべてテラスハウスや中低層共同住宅に建て替えられました。民間開発も行い高所得者層を呼び込んだため、ソーシャルミックスが実現しています。
ホリーストリート団地
団地内の高層住棟全てが改修される予定の団地
バウクロス団地は25階建て3棟と、低層ハウス群からなる公営住宅団地です。現在、再生事業が行われている途中で、高層住棟1棟は改修を終え、残り2棟も近い将来、改修される予定です。高層住棟の改修では、コンクリートの構造体を除く壁体や全設備が取り替えられ、地上エントランスにはコンシェルジュが配置され(7-19時)、子供の遊び場や管理事務所なども設置されました。
バウクロス団地
保全登録されている高層住棟をもつ団地
ブラウンフィールド団地は、28階建て住棟、14階建て住棟、11階建て住棟、中低層住棟からなる公営住宅団地です。3棟の高層住棟はイングリッシュ・へリテージ(歴史的建造物を保護する目的で設立された組織)にグレードIIとして保全登録されており、解体・増築・改造には自治体の許可が必要です。28階建て住棟はいずれ改修が行われる予定です。
ブラウンフィールド団地
多くの事例でみられた共通点として、再生前には住宅性能や治安などの安全面で大きな問題があり、再生にあたっては、庭付き接地型住宅を望む声が大きかった一方で、高層住棟の改修を望む声も一部でありました。再生後は、改修後の高層住棟は設備やサービス向上によりセキュリティが改善されており、高層住棟の解体後はテラスハウスや中低層共同住宅に建替えられ、高所得者層を呼び込むなどのソーシャルミックスも図られています。
団地再生の主な目的は「居住性能の向上」と「安全面の向上」であると考えられ、前者はストックの物理的な改善やソーシャルミックスにより実現されており、後者はバンダリズム(公共物の破壊・汚染する行為)対策として団地全体で防犯設計を行うことで実現されています。これらの実現条件は団地によって異なり、各団地が持つ様々な事情を総合的に考慮した上で、高層住棟の改修もしくは解体が決断されていると考えられます。
事例報告2
フランス首都圏の既存集合住宅とその管理
報告:京都大学大学大学院生 関川 華さん
フランス首都圏の集合住宅(アパルトマン)には19世紀に建てられたものが多く含まれています。当時、エレベーターはついていませんので、階段の昇降の負担がない下階には裕福層が、上階に行くほど相対的に貧困層が住んでいました。そのため、同一の住棟に異なる階層の世帯が重層的に居住し、集合住宅の管理を居住者自身が共同して行うことが難しい状況がありました。
このような歴史を背景として、フランスの首都圏において集合住宅の管理のルールが発展してきたわけです。運営管理は、区分所有者全員で構成される区分所有者組合(サンディカ)、区分所有者組合の代表である組合管理会(コンセイユ・サンディカル)、管理者(サンディック)という三者によって行われます。実質的な管理業務の実施は住宅管理人であるガルディアンが行います。ガルディアンは、集合住宅の共同空間を見守ったり、短時間ながら子守りを引き受けたり、郵便物の配達をしたりします。
一方、フランスでは、2つの世界大戦後に起きた住宅危機に対して、多量の住宅供給が行われました。それを機に、集合住宅の所有権の改革や社会住宅の新規供給が行われました。現在では、19世紀及び20世紀に建てられた既存ストックの老朽化が進んでいます。これらの管理現状について事例を提示しながら報告します。
フランス初の社会住宅
1853年に建設されたフランスで最初の国主導型の社会住宅がシテ・ナポレオンです。ガルディアンのための空間が社会住宅に設置された初めての事例でもあり、オクタヴィア・ヒルの思想が表れていると言われます。もともとは労働者向け住宅でしたが、現在は一般の賃貸住宅になっています。1階にはガルディアンが常駐するための管理人室が配置されています。
シテ・ナポレオン
改修してストックを活用している社会住宅
13区のオピタル通り137番地にある社会住宅(409戸)は1926年に建設され、歴史のある住棟の外観は保全し、85年前のスケルトンも残したまま、老朽化したインフィルを入居者が居住したままで改修しました。建設当時共用だったシャワーは専用化され、各戸にシャワー室が設置されました。また、入居者が退居するたびに公社が内装を改修し、現在は常駐の管理人も配置されています。こうした改修を重ねながら持続的にストックを活用しています。
オピタル通り137番地
バンダリズムの防止
13区のオピタル通り122番地の社会住宅(543戸)は、1969年に竣工しましたが、その後バンダリズム(公共物に対する破壊行為)に起こりました。98年から2001年にかけて共同玄関や外部空間を整備し、ガルディアンを配置しました。このような工事で広い敷地を区分し、各階段室の居住者の領域性を確保することによって、住宅に愛着を持ち易い状況をつくり、バンダリズムを防ごうとしています。
12区のラペ通り38番地の社会住宅は建て替えの事例です。既存の中層住宅を、各戸に30㎡の大きなバルコニーがある高層住棟へと建て替え、さらに、接地型の低層住棟を新しく建設する予定です。多様な形態の建物を含む団地の再生事例です。居住空間の規模は、高層住棟の2寝室プランの場合、80㎡(バルコニーは別に30㎡ある)。シンクと給排水管のみ設備し、あとの設備は自分で設置します。ここにもガルディアンが配置されています。
オピタル通り122番地
都心区分所有集合住宅
最後の事例は、都心にある区分所有集合住宅です。7区のロビアックスクエアに築160年7階建てのアパルトマンがあります。区分所有者組合の理事長の自宅が6階にあり、最上階にはペントハウス、住棟の一部には店舗が入り、それらを束ねる区分所有者組合があります。1階には管理人室があり、ガルディアンがいます。ガルディアンの配置に関しては、一般の集合住宅は社会住宅と共通していますが、ガルディアンの発生時期は社会住宅より早く、ルーツも異なります。住戸には4つの寝室、サロン、ダイニングがあり、共有空間である中庭に向けては洗濯物をほしてはいけないなどのルールもあります。
パリ都心集合住宅
フランス首都圏の区分所有集合住宅では、区分所有者や専門家で構成される運営管理組織と、維持管理業務の実施を担う主体(ここでは伝統的な住宅管理人、ガルディアンを紹介)がいます。社会住宅では、60年代までに大量供給した既存ストックの老朽化に対して、部分的な建物修繕や設備機器等の新設や改善による居住水準の向上が図られていました。さらに、公共物の破壊行為に対しては、領域性の確保や対人サービス(ガルディアンの配置)によって防止策を講じています。また、居住者のソーシャルミックスを図るため、より階層の高い居住者の呼び込みに対応した住宅を建替えによって実現している事例も認められました。