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大阪市立住まい情報センター 平成23年度シンポジウム報告 第1部
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」開館10年記念
進化する博物館「旭山動物園と大阪くらしの今昔館」
日時:平成23年10月16日13:30~16:30
会場:住まい情報センター 3階ホール
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の開館10年を記念して、大阪市立住まい情報センターでシンポジウム~進化する博物館「旭山動物園と大阪くらしの今昔館」が開催されました。動物を生き生きと見せる「行動展示」で全国的に有名になった旭山動物園と、江戸時代の大坂の町並みを再現し、庶民の暮らしぶりをリアルに展示する「体感展示」で入館者数を増やしている「大阪くらしの今昔館」。この二つは「展示資料や展示方法は異なるけれど博物館としてめざす方向は同じ」と、大阪市住まい公社理事長 岩城良夫さんのあいさつから始まったシンポジウムは、博物館の未来のあり方を考える意義深い内容になりました。
第1部
感動を呼ぶ展示でメッセージを伝える旭山動物園
旭山動物園 園長 坂東 元さん
動物園は、くらしという意味で言えば、超個性派の動物たちがくらしている場所です。うちは広い動物園ではありませんが、そこに一時期、300万人という方が訪れて、「成功した」と言われました。僕たちとしては、足を運んでくださったみなさんが動物たちを見て新たな発見をしたり、やさしい気持ちになれたり、そういうことを持って帰ってほしい、とずっと思ってやってきました。やはり入園者数が評価軸になり、年間で言うと上野動物園が1番で、しばらく、うちは2番でしたが、昨年3番に陥落しました。でも、それでいいと言っています。要は、動物たちのくらしの営みを通して動物園としてどう取り組んでいるのか。旭山動物園が素晴しいのじゃなくて、動物達が素晴らしいんだということをしっかり伝えていかなければならないと思っています。
旭山動物園は、人口35万人ほどの旭川市に昭和42年にできた、典型的な地方の中規模動物園です。私は獣医として昭和61年に入ったんですが、当時はボロボロの動物園で、お客さんが減り続ける中で平成6年には外来寄生虫エキノコックスが発生し、途中閉鎖。風評被害で平成8年には入園者数は26万人まで落ち込み、どん底を経験しました。それでも、自分たちができることは地道に続けていて、それが少しずつ一般的に評価され再生していくきっかけにもなった。入園者数はじわじわ増えていき、平成16年には100万人を超え、あり得ない数でしたが、その3年後には307万人にもなりました。でも、うちのような規模の動物園だと、200万人までが足を運んでくださる方に対して目を配れる限度かなと思います。
どの動物も素晴らしい、命に価値の差はない
旭山が評価された部分で一番大きかったのは、お客さんにウケる形ではなく、あくまで自分たちが動物は素晴らしいと思っている視点で発信してきたことにあると思っています。もう一つは、どん底の時と300万人の時と、動物の顔ぶれがほとんど変わっていないことです。
新しい動物を足したわけではなくて、「こんなの」と言われた動物たちの見せ方を工夫したことで、もう一回みんなが振り向いてくれた。スタッフは全然プロ集団ではありませんが、ここまでこられた原点を考えると、やはり、自分が対象としている動物に価値を見出し、自分の中から湧き出るような気持ちで皆が一つの方向を向いてやっていることが大きい。私は獣医になり、生きることの大切さを人間の価値観の中で見ていました。でも、動物園に入って動物たちが人間と全然違うすごい尊厳のある生き方をしていて、思いもしなかった生命観があると思い知った。どうすればその動物らしく生きられるのか、どうやったらその動物らしく最期を迎えられるのか、に関わるべきだと気づき、それが私の原点になりました。動物は痛みや苦しみも受け入れる生き方をして、だから恨む目をしないで最期を迎えていきます。そういう動物たちの純粋さ、気高さ、尊さを思います。しかし、お客さんは、おもしろいおもしろくない、可愛い可愛くない、珍しい珍しくない、という表面的なところにだけ評価を与えてしまいがちです。パンダやコアラやラッコがブームになる中で、生き物に価値の差が生まれ続けた時代があります。ラッコブームの時に子どもがアザラシを見ていると、大人が、これラッコじゃないよ、ただのアザラシよと言ったりした。それを聞いた子どもは、なんだ、ただのアザラシなのかと思う。さらにくやしいのは、命を預かっている側が命の価値に差をつけて見せ続けたこと。せめて、大人の価値観を子どもに移し続けないことが大事。子どもたちが素晴らしいと思ったことを伸ばしてあげるようにしたいです。
動物のありのままの「すごい」を伝える見せ方
施設が古くてもお金がなくても、動物たちは素晴らしいと思い続けている自分たちが架け橋になろう、僕らには伝える使命があると「ワンポイントガイド」が生まれました。これは20数年ずっと続けて一回も休んだことはない。「つまらない」で終わらせられないんです。
「行動展示」という展示も、僕らの価値観とスタンスで評価してほしいという視点から生まれたものです。動物園は人間のエゴで作った場所ですが、そこに閉じ込められている動物がその動物としての一生を送れてその動物らしく一生を終われる環境を整えてあげること。それが日本や世界中で発想としてなかっただけなんです。だから、何も奇をてらってはいなくて自然なことだった。どこに感動してほしいかは、ありのままが一番美しいはずなので、着飾った姿や芸をしたりではなくて、日常のふとした瞬間が素晴らしいと感じてほしいということで施設を考えました。
たとえば、ヒョウの檻は一番ヒョウらしく居心地よく過ごせるようにヒョウの目線で考えて、その次に人間の目線で考えました。それまでは、寝ていてつまらないからと、お客さんが石を投げた。そこが理解できないのですが、でも、今は少なくとも寝ていてもつまらない、じゃなく、感動して見てもらえるようになりました。飼育している動物に恩返しできたような気がします。ほかも、その動物らしい生き生きとした姿が何より素晴らしいのだという考え方。
アザラシ館ではアザラシが円筒の中に入るだけで歓声があがる。ショーや芸じゃなく、日常の当たり前の姿でこれだけ歓声があがったのは、日本の動物園史上初めてだろうと思います。ただのアザラシだったものがそうじゃなくなり、他の動物園もパンダやラッコじゃなくても今いる動物で感動を呼ぶことができるという視点に変わっていった。ほんの小さな組み合わせで変えることができるし、ありのままの姿を見てもらって動物の生き方を知ると、何が大切で何を守るべきなのかが見えてくる。心の中で彼らのくらしを感じて本当に愛おしいと思えるようになるのだと思います。
作りっぱなしではなく、ソフトを工夫して伝え続けること。ハードとソフトの両輪だと思います。たくさんの人が来るきっかけになった「もぐもぐタイム」や、アナログにこだわったタイムリーな手書きの情報発信も続けています。動物を擬人化しない、人の価値観にひきこんで見せない、動物の尊厳を傷つけない。それが旭山の考え方の軸です。これからも、動物の「すごい」を伝えていきたいと思います。
続きはこちら ≫ https://www.sumai-machi-net.com/symposium/archives/1709
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」開館10年記念
進化する博物館「旭山動物園と大阪くらしの今昔館」
日時:平成23年10月16日13:30~16:30
会場:住まい情報センター 3階ホール
会場:住まい情報センター 3階ホール
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の開館10年を記念して、大阪市立住まい情報センターでシンポジウム~進化する博物館「旭山動物園と大阪くらしの今昔館」が開催されました。動物を生き生きと見せる「行動展示」で全国的に有名になった旭山動物園と、江戸時代の大坂の町並みを再現し、庶民の暮らしぶりをリアルに展示する「体感展示」で入館者数を増やしている「大阪くらしの今昔館」。この二つは「展示資料や展示方法は異なるけれど博物館としてめざす方向は同じ」と、大阪市住まい公社理事長 岩城良夫さんのあいさつから始まったシンポジウムは、博物館の未来のあり方を考える意義深い内容になりました。
第1部
感動を呼ぶ展示でメッセージを伝える旭山動物園
感動を呼ぶ展示でメッセージを伝える旭山動物園
旭山動物園 園長 坂東 元さん
動物園は、くらしという意味で言えば、超個性派の動物たちがくらしている場所です。うちは広い動物園ではありませんが、そこに一時期、300万人という方が訪れて、「成功した」と言われました。僕たちとしては、足を運んでくださったみなさんが動物たちを見て新たな発見をしたり、やさしい気持ちになれたり、そういうことを持って帰ってほしい、とずっと思ってやってきました。やはり入園者数が評価軸になり、年間で言うと上野動物園が1番で、しばらく、うちは2番でしたが、昨年3番に陥落しました。でも、それでいいと言っています。要は、動物たちのくらしの営みを通して動物園としてどう取り組んでいるのか。旭山動物園が素晴しいのじゃなくて、動物達が素晴らしいんだということをしっかり伝えていかなければならないと思っています。
旭山動物園は、人口35万人ほどの旭川市に昭和42年にできた、典型的な地方の中規模動物園です。私は獣医として昭和61年に入ったんですが、当時はボロボロの動物園で、お客さんが減り続ける中で平成6年には外来寄生虫エキノコックスが発生し、途中閉鎖。風評被害で平成8年には入園者数は26万人まで落ち込み、どん底を経験しました。それでも、自分たちができることは地道に続けていて、それが少しずつ一般的に評価され再生していくきっかけにもなった。入園者数はじわじわ増えていき、平成16年には100万人を超え、あり得ない数でしたが、その3年後には307万人にもなりました。でも、うちのような規模の動物園だと、200万人までが足を運んでくださる方に対して目を配れる限度かなと思います。
どの動物も素晴らしい、命に価値の差はない
旭山が評価された部分で一番大きかったのは、お客さんにウケる形ではなく、あくまで自分たちが動物は素晴らしいと思っている視点で発信してきたことにあると思っています。もう一つは、どん底の時と300万人の時と、動物の顔ぶれがほとんど変わっていないことです。
新しい動物を足したわけではなくて、「こんなの」と言われた動物たちの見せ方を工夫したことで、もう一回みんなが振り向いてくれた。スタッフは全然プロ集団ではありませんが、ここまでこられた原点を考えると、やはり、自分が対象としている動物に価値を見出し、自分の中から湧き出るような気持ちで皆が一つの方向を向いてやっていることが大きい。私は獣医になり、生きることの大切さを人間の価値観の中で見ていました。でも、動物園に入って動物たちが人間と全然違うすごい尊厳のある生き方をしていて、思いもしなかった生命観があると思い知った。どうすればその動物らしく生きられるのか、どうやったらその動物らしく最期を迎えられるのか、に関わるべきだと気づき、それが私の原点になりました。動物は痛みや苦しみも受け入れる生き方をして、だから恨む目をしないで最期を迎えていきます。そういう動物たちの純粋さ、気高さ、尊さを思います。しかし、お客さんは、おもしろいおもしろくない、可愛い可愛くない、珍しい珍しくない、という表面的なところにだけ評価を与えてしまいがちです。パンダやコアラやラッコがブームになる中で、生き物に価値の差が生まれ続けた時代があります。ラッコブームの時に子どもがアザラシを見ていると、大人が、これラッコじゃないよ、ただのアザラシよと言ったりした。それを聞いた子どもは、なんだ、ただのアザラシなのかと思う。さらにくやしいのは、命を預かっている側が命の価値に差をつけて見せ続けたこと。せめて、大人の価値観を子どもに移し続けないことが大事。子どもたちが素晴らしいと思ったことを伸ばしてあげるようにしたいです。
動物のありのままの「すごい」を伝える見せ方
施設が古くてもお金がなくても、動物たちは素晴らしいと思い続けている自分たちが架け橋になろう、僕らには伝える使命があると「ワンポイントガイド」が生まれました。これは20数年ずっと続けて一回も休んだことはない。「つまらない」で終わらせられないんです。
「行動展示」という展示も、僕らの価値観とスタンスで評価してほしいという視点から生まれたものです。動物園は人間のエゴで作った場所ですが、そこに閉じ込められている動物がその動物としての一生を送れてその動物らしく一生を終われる環境を整えてあげること。それが日本や世界中で発想としてなかっただけなんです。だから、何も奇をてらってはいなくて自然なことだった。どこに感動してほしいかは、ありのままが一番美しいはずなので、着飾った姿や芸をしたりではなくて、日常のふとした瞬間が素晴らしいと感じてほしいということで施設を考えました。
「行動展示」という展示も、僕らの価値観とスタンスで評価してほしいという視点から生まれたものです。動物園は人間のエゴで作った場所ですが、そこに閉じ込められている動物がその動物としての一生を送れてその動物らしく一生を終われる環境を整えてあげること。それが日本や世界中で発想としてなかっただけなんです。だから、何も奇をてらってはいなくて自然なことだった。どこに感動してほしいかは、ありのままが一番美しいはずなので、着飾った姿や芸をしたりではなくて、日常のふとした瞬間が素晴らしいと感じてほしいということで施設を考えました。
たとえば、ヒョウの檻は一番ヒョウらしく居心地よく過ごせるようにヒョウの目線で考えて、その次に人間の目線で考えました。それまでは、寝ていてつまらないからと、お客さんが石を投げた。そこが理解できないのですが、でも、今は少なくとも寝ていてもつまらない、じゃなく、感動して見てもらえるようになりました。飼育している動物に恩返しできたような気がします。ほかも、その動物らしい生き生きとした姿が何より素晴らしいのだという考え方。
アザラシ館ではアザラシが円筒の中に入るだけで歓声があがる。ショーや芸じゃなく、日常の当たり前の姿でこれだけ歓声があがったのは、日本の動物園史上初めてだろうと思います。ただのアザラシだったものがそうじゃなくなり、他の動物園もパンダやラッコじゃなくても今いる動物で感動を呼ぶことができるという視点に変わっていった。ほんの小さな組み合わせで変えることができるし、ありのままの姿を見てもらって動物の生き方を知ると、何が大切で何を守るべきなのかが見えてくる。心の中で彼らのくらしを感じて本当に愛おしいと思えるようになるのだと思います。
作りっぱなしではなく、ソフトを工夫して伝え続けること。ハードとソフトの両輪だと思います。たくさんの人が来るきっかけになった「もぐもぐタイム」や、アナログにこだわったタイムリーな手書きの情報発信も続けています。動物を擬人化しない、人の価値観にひきこんで見せない、動物の尊厳を傷つけない。それが旭山の考え方の軸です。これからも、動物の「すごい」を伝えていきたいと思います。
続きはこちら ≫ https://www.sumai-machi-net.com/symposium/archives/1709