令和2年度 大阪市立住まい情報センターシンポジウム
WITH/AFTERコロナ 住まい・まちづくりはどう変わる
~テレワークと住むまち大阪を考える~
令和2年11月23日に「令和2年度 大阪市立住まい情報センターシンポジウム」が開催されました。WITH/AFTERコロナの時代に向けて、在宅勤務やモバイルワーク、サテライトオフィスなどを指す「テレワーク」という働き方が広がっています。基調講演やパネルディスカッションでは、研究やデータを紐解きながら、実際の住まい手の声から現状を浮き彫りにし、テレワークと住まい、そして、住むまち大阪を考えるきっかけとなりました。
1.基調講演「WITH/AFTERコロナ 住まいはどう変わる」
講師:宮原 真美子 氏
(佐賀大学理工学部理工学科都市工学部門准教授)
シェア居住、他世代交流拠点、コロニアル住宅バンガロー、アジアの公共住宅などをキーワードに世界各国の住まい研究に取り組む。著書に『シェアハウス図鑑』(共著)。
緊急対応期と小康状態を繰り返しながら進む
働き方改革のなかで、2000年以降広がってきている「テレワーク」。在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィスなど、オフィス空間に制約なく、有効活用できることが利点の働き方を指します。この度の緊急事態宣言が後押しとなり取り入れる企業が増加しました。実施状況には、東京23区と地方では開きがありますが、内閣府のデータだと全体的に3割の人が何かしらテレワークを実施しているというデータが出ています。
新型コロナ感染症の第三波が来ていると言われる中、今後自分たちの暮らしを、どう考えていかなければならないのか。これまではオフィスか住宅か、働く場所はほとんど二択でしたが、テレワークが導入されるということで、オフィスで行われていた作業が住空間の中に入ってくることとなりました。そうなると、住宅と施設の役割を両面で考えていく必要が出てきます。
新型コロナウイルス感染症には、緊急対応期と小康状態を繰り返しながら進んでいくという特徴がみられ、個人と集団の住まい方や働き方に求められる行動変容と、それらが定着していく過程をきちんと捉えていく必要があります。
緊急事態宣言下の住まいの実情は、テレワークによりどう変わったのか?今回、在宅勤務について、アンケート調査とオンラインインタビューを実施。209事例のアンケート調査と、30事例のオンラインインタビューにより、在宅時間の空間的課題、勤務・育児・家事・余暇などの課題やこれからの住環境とオフィス環境の改善について、調査データから考えていきます。調査データの一部は、Facebook Work Well Home with COVID-19にて報告していますので合わせてご覧ください。
専用のワークスペース確保の難しさ
「自宅内のワークスペースの確保状況」について、リビング、ダイニングを活用したという回答が全体の8割強で、専用の個室がない状態が多数という結果でした。ワークスペースに、寝室やベランダで代替えして活用する事例もみられます。どの世代も共通して、専用のワークスペースを持つのは難しい現状だったことがうかがえます。
住宅面積からみると、40平米を越えるとワークスペースの独立性が高くなり、世帯別で見ると、夫婦子どもの共働き世代だと、ワークスペースの独立性は低くなっています。テレワーク実施により家庭に増えた機器・家具類については、机、椅子、クッションなどの腰の負担を軽減するアイテム、照度の高い照明などがあげられ、オフィス家具と住宅家具は兼用しにくいという弊害も垣間見えました。
創意工夫が見られる多種多様なワークスペース
アンケートで、自宅内のワークスペースの写真を提供いただきましたが、キャンプ用のテーブルをリビングテーブルに繋げたり、寝室の一角に折り畳み机を設置したりするケースなど、様々な試行錯誤が見られました。オンライン会議対応中に、子どもの声や家事の生活音が入らないようにするのが大変だったという声も多く、同じ空間にいることで、互いの音が干渉し合う。どう回避するのかという問題の中、オンライン会議は寝室や洗面室、洗濯機の上を使っているという事例も興味深いものでした。全く違う行動をする人同士が同じ空間にいる場合、どう空間を切り分けるべきかという問題が浮き彫りになりました。
また、仕事中の姿勢、体の向きなども問題となりました。並んだり向き合ったり、リビングのローテーブルは高さが合わず立ったままで仕事をするなど、住宅のあり方を改めて考えさせられました。しかし問題ばかりではなく、妊婦さんが床に座って体勢を変えながら仕事ができたという在宅ならではのメリットのある事例もありました。不向きな自宅の空間や家具をなんとか駆使して、長時間仕事を行うために、創意工夫をしながらテレワークを行っている様子でした。
世帯や空間のしつらえによって変容する
次にオンラインインタビューの結果、5パターンの世帯(共働き夫婦、子育て世代2組、産休中子育て世帯、単身世帯)の事例を紹介。音の問題を解消するために、時間ごとに空間を使い分けてワークスペースを確保している事例や、幼い子どものタイムスケジュールに合わせて、仕事を組み立てることで、テレワーク以前とは一日のスケジュールが変化したという事例もありました。窓が三方向にある事例では、窓を見ながら一日の流れや外の様子を感じられるということを非常に重要だと感じました。どの事例においても、テレワークとなっても仕事をしている時間の長さは変わらないが、一日の時間の組み立て方が大きく変わってきています。
またシェアハウスの事例では、各自が暮らす個室を出て、共有スペースに出勤するようなスタイルでテレワークを行っていました。買い物はシェアハウスの居住者で、時間のあるときにまとめて行ったりする事例も。生活の軸の合間に、仕事を組み込んでいるようなスタイルも見えました。シェアハウスに住んでいるということで生活の共有性が生まれているということにおもしろさを感じます。
中間領域にひろがる、働き方のオルタナティブ
非常事態宣言により、感染に対して安全であるために空間・時間を共有しない行動変容が迫られました。一方で、感染の不安の中で健全であるために空間・時間を共有することをどこまで許容するかが生活の質につながりました。
これらの調査結果で見えてきた課題がいくつかあります。まず、ワークスペース確保の難しさでしょう。オフィス家具と生活家具の違いにより仕事が継続しにくくなっており、なかでも音の問題(オンライン会議、生活音、子どもの声)は大きな課題で、オンライン会議時には、物理的に空間の独立性が必要です。職種や世帯構成によっても、働き方や空間づかいも異なってくるため問題も多種多様です。いっぽうで、プラスに働いた面もあります。家族との食事が増えたり、子ども中心でスケジュールを組めるようになったりするなど、仕事に合わせた生活から、生活に合わせて仕事をするという価値の転換も起こっていました。オンラインツールを用いて、多様な働き方ができる、自由な働き方の可能性も十分に感じられます。
緊急事態宣言時を、豊かに過ごせたかどうかの大きな差は、平時からコミュニティとどのくらい関わっていたかでも変わってきます。コロナ禍の状況下で、生活の質を上げていくためには、空間や時間をどこまで、共有するかしないのかの線引きをどうしていくのかを、各自見極める必要があります。健全に暮らすためには、コミュニティや自宅周辺の生活圏の見直しも必要ではないでしょうか。
これからは、オフィスか住宅のどちらかという考え方ではなく、その中間領域に働き方や働く場所のバリエーションが増えていく可能性があります。生活圏の中で、仕事場をどこに確保するかも新たな選択肢。例えば、郊外の駅近コワーキングスペースや地域コミュニティ施設の解放など、まち側が働く人に、提供できるなにかがもっとあるかもしれません。働き方のオルタナティブを今後見守っていきたいです。
2.パネルディスカッション
「テレワークと住むまち大阪を考える 」 〜前編〜
第2部前編は、株式会社リクルート住まいカンパニー関西拠点長の寺内 正裕氏による、行動変容の変化について(SUUMO調べ)のデータの解説、続いて、大阪市旭区住まい手である永野 真也 氏と大阪市北区の住まい手である岸上 純子 氏による、コロナ禍における各自の暮らし方が報告されました。
寺内 正裕 氏
((株)リクルート住まいカンパニー 関西拠点長)
2014年よりSUUMOカウンター推進室 注文関東1部部長、2016年より関西・東海注文住宅営業部長。2019年より関西戸建流通営業部部長 兼 関西拠点長。
変化のベースは、「在宅勤務」「感染リスク低減」
コロナ禍での住み替え行動変容の状況を、住宅購入検討者向けに行った調査(2020年5月・9月実施)によるデータをもとに紹介します。コロナ禍のテレワーク経験は、大阪では64.8%、東京では71.1%、その他44都道府県では、38.5%という現状です。暮らしにおいては、9月調査でも外食する機会が減った人は半数以上にのぼり、家の中で余暇を過ごす機会が増えたのは、3人に1人でした。
住まい探しをするきっかけになったという声は増えており、注文住宅への希望が高くなっています。通勤時間の許容は、車で15分、30分以内が増加。戸建て思考と家の広さ志向に重きを置かれている様子がうかがえます。今後住み替えたい住宅の需要は?という質問に対しては、リビングを広く、個室は狭くてもいいから部屋数が欲しいという声が40%以上。テレワークについても、84%がテレワークを続けたい・実施したいという意見が出ています。
また、郊外化への動きは限定的で、関西ではそこまで進んでいません。今回のコロナを機に、賃貸住宅で在宅ワークをしていた20代後半から30代のプレファミリーが、予定より2、3年早めに動いているようです。高額物件の売買やランクアップの買い替えについては、様子見の状況が続いています。
住むまちにより求めるようになったもの
家で過ごす時間が増えてきている中、住むまちの基準の変化を見ていきます。「住みたい街ランキング」では、梅田、西宮北口などのターミナル駅、商業施設がそばにあるまちが、前回調査とあまり顔ぶれ変わらず人気でした。大阪の「愛されている街ランキング」では、1位中之島、2位四ツ橋、4位四天王寺前夕陽ヶ丘、5位中崎町など、大阪市内の中心部の駅が多くランクイン。比較的住環境が安定している、徒歩圏内で欲しいものが揃うコンパクトなまちが求められています。
中でも1位の中之島は、住民に今後の発展を期待されています。日常の買い物だけでなく、文化やスポーツなどを近くで楽しめ、病院なども充実しており、近年、住むまちとして注目されています。人が行き交うまちとして人気が高まってきています。
コロナ禍を受け、公園や商店街の役割があらためて注目されており、住むまちには、歩く範囲で日常のものがひととおりそろうことや、住民同士の交流が盛んであることが求められるようになってきています。様々な感覚を満たせる多様な側面を持つまちが、今後人気を高めていくと考えられます。
永野 真也 氏(旭区 住まい手)
建築設計事務所に勤務。結婚を機に大阪市旭区に移住。「千林かいわいの暮らしを“もっと”楽しくする」活動である「1000ピースプロジェクト」の立ち上げに参加。現在家族3人で旭区生活を満喫中。
旭区に住まうこととテレワーク
旭区を居住地に選んだ理由は、夫婦共々、職場が谷町沿線で通勤の便がよかったことと、千林界隈がなんとなく暮らしやすそうだなという直感からです。「千林かいわいの暮らしを“もっと”楽しくする」ことをテーマにしている地域活動である「1000ピースプロジェクト」の立ち上げに参加して、商店街の店主や様々な年代の住民と夫婦共々に知り合いになる機会がありました。全く違う土地からきた自分が、まちのあちこちに知り合いができたことで、家をここに構えようと決めました。現在は、中古物件をフルリノベーションした一軒家で、家族3人で暮らしています。
緊急事態宣言中は、生活も状況も一変しました。私は週に1回会社の出社、妻は2日に1回の出社という中、夫婦入れ替わりで子どもの面倒を見ながらテレワークをしているという状況でした。子どもがあまり目を離せない年頃ということもあって、通常レベルの仕事は諦めて、宣言が開けるまではやり過ごそうと、その場しのぎで乗り越えていきました。
仕事場はダイニングテーブル。ノートパソコンはありましたが、テレワークのためにモニターとキーボードを新しく購入しました。照明も昼白色にも切り替えられるものに交換しました。食事時に書類が片付けられるように書類ケースも購入しました。ダイニングの椅子が一日中座るには少し不向きだったので、少し背の高いスツールにときどき座り替えることで腰の負担を軽減していました。ダイニングでパソコンとスマホ、PCモニター、タブレットに囲まれていましたが、大量にある書類の管理が大変で、ペーパーレス化の必要性を強く感じました。また、デジタルコミュニケーションツールへの理解に世代による差があり、社内連携の低下を感じました。
仕事面では多々問題もありましたが、家族で同じ時間を共有する時間が増えてよかったです。子どもも1人で上手に遊べるようになり、自宅周辺を散歩する中で、普段の生活の中ではなかなか会うことのない、「1000ピースプロジェクト」のメンバーに出くわすことがあり、宣言期間中の閉塞的な時期に楽しいリラックスする時間となりました。
テレワークについていえば、メリットを生み出せる職種は限られていると感じています。コロナ後、テレワークを基本とする企業は、中小企業だと難しいのではないでしょうか。共働き世帯で、子どもの世話をしながら仕事も止められない場合やワークライフバランスを整えることを目的に、休みと出勤の中にある新しい選択肢として、今後、柔軟に活用できればいいのかと思います。
岸上 純子 氏
(北区 住まい手、建築家、SPACESPACE一級建築士事務所)
北区中津の中津商店街内にある大正2年築の長屋を改修した事務所兼自宅で仕事と子育てをしながら、商店街を始め、うめきた周辺のまちづくり活動も行っている。
プライベートとパブリックの境界線
中津商店街にある長屋を購入して自分たちでリノベーションした事務所兼自宅を構えています。学生の頃から中津に遊びに行ったりしてまちのことを知っており、中津商店街がさびれてしまっていることも知っていました。自分ごととしてまちに関わっていきたいという思いもあり、移り住みました。
私は、設計事務所での仕事の他に、専門学校での特任教員、大学での非常勤講師もしており、妻・嫁・母でもあります。住まいは、1階が建築設計事務所(夫と共同主宰)、2階が自宅という職住一体の生活で、1、2階ともほぼワンルームの空間で、家族の中のプライバシーはそんなにいらないと思い個室を作っていませんでした。これまで週1、2日と早朝・夜のみであった事務所での仕事が、緊急事態宣言にともない、いざテレワークが始まると、夫が仕事をしている空間で、大学のオンライン授業をすることになりました。もともと職住一体の住まいとなっているため、当初は簡単に考えていました。建築図面を書くのは、人が隣にいても大丈夫ですが、オンライン授業では、画面に向かってずっと話をしている状態なので、斜め前に座って仕事をしている夫は仕事がはかどらない状況になりました。座る位置の距離を取ってみたり、2階に移動したり、試行錯誤の末、子どものおもちゃを収納する押入の棚板の上にたどりつきましたが、最終的には、外が見える窓台の上に落ち着きました。半年間で、4回家の中で仕事場が変わりました。個室を設けないワンルームの間取りで、これまでは心地良い暮らしができていましたが、今回、家族のプライベートに全く違うところからパブリックが入り込んでくるという、プライベートとパブリックの境目の複雑さを感じました。
中津は、梅田からほど近い場所ですが、昔ながらの下町の風景があり、地域コミュニティが残っています。このような環境で、夫婦だけで子育てするのではなく、地域で見守ってもらい、多様な人たちと関わりながら、子どもに成長してほしいと思いました。また、お年寄りや他の子どもたちをお互いに見守りながら暮らしていける場所だと思っています。家の斜め前にある駄菓子屋には、子どもは毎日100円握り締めて通っています。仕事で遅くなるときには、駄菓子屋のおばちゃんに子どもを見てもらったりもしています。地域で子育てしてもらうところに魅力を感じています。
3.パネルディスカッション
「テレワークと住むまち大阪を考える 」 〜後編〜
第2部・後編は、コーディネーターの前田 昌弘 氏(京都府立大学大学院生命環境科学研究科准教授)の司会進行のもと、テレワークと住むまちとしての大阪、今後の暮らし方について、寺内 正裕氏、永野 真也 氏、岸上 純子 氏、コメンテーターとして宮原 真美子 氏を交えてパネルディスカッションが行われました。
コーディネーター:前田 昌弘 氏
(京都府立大学大学院生命環境科学研究科准教授)
専門は建築計画学、住居・まちづくり、災害復興・防災。京都を主とする国内の住まい・まちづくりから国内外の災害復興、コミュニティ支援まで研究と実践を展開している。
前田:住み手の視点からご報告とご意見をくださった永野さん、岸上さん。住宅供給者側からデータにもとづいてお話いただいた寺内さん、空間の使い手の調査研究にもとづいてお話しいただいた宮原さん。それぞれのお話を聞かれて、どのような感想を持たれたでしょうか?
岸上:宮原さんの研究結果には共感しました。それぞれの方が自分の家で仕事をするのに、少しでも心地よいスペースを探して見つけていました。これからの建築設計に活かせるお話でした。これまでは与えられた場所にこう住むべきだと思っていた人が、テレワークを経験して、パーソナルスペース、家族とのスペースなど家での暮らしについて改めて、真剣に考えた機会になったと思います。一般の方が建築や住環境について、自分ごととして考えてもらえることは、建築に携わる人間として嬉しく思います。
永野:宮原さんのお話にすごく共感しました。住まいへのニーズはライフステージによっても大きく変わってくると思います。寺内さんのお話で意外と郊外に人が流れていないというのは実感通りでしたが、今後どうなっていくのか気になります。テレワークについては、今後、社会の中にどう落としこまれて、オフィスの形が変わったりしていくのか経過を見つめていきたいです。
寺内:あらためてリモートワークは働き方改革のひとつの方法だと感じました。そのメリットを体現しているのが永野さん。一方で、デメリットとして、通信環境や印刷物のやりとり、会社としてのセキュリティー面の問題も残っています。働き方改革のなかでメリット・デメリットをどう生かしていくかが今後の課題ですね。パブリックとプライベートの分離についても、リモートワークをする上で工夫の余地があると感じました。
前田:宮原さんの話のなかで自宅のソファで仕事をする事例がありました。日本の住文化の特徴として、椅子座と床座が混在する生活様式があります。本来リラックスする場所であった住まいで仕事に集中することは意外と難しく、必要だからと言って簡単には人の行動は変容しません。また、岸上さんの話では、プライベートな空間にパブリックな関係が入り込んできたことで暮らし方を見直さなければならなかったという話も興味深かったです。これは、自宅でテレワークをする上で、皆に共通して起きている問題なのではないでしょうか。歴史をふりかえると、住宅には住むだけではなく、働く、子育て、調理、食事、接客など、様々な機能がありました。近代化の過程で家の外に放り出さた機能が今回のコロナ禍で家に舞い戻ってきたことで、私たちは今、試行錯誤を強いられているのではないでしょうか。
宮原:在宅ワークを強いられた中で、ワークスペース難民になっています。これをどう解決するかは、次のまちづくりを考える上で重要だと思います。ないものをまちに求めるのか住まいに求めるのか。その取っ掛かりをまちで持つこと、空白地帯が重要だと思います。もともと生活は、まちに根付いているもの。まちと人が関係を作るフックになればと思います。まちの近所にあるフリーアドレスのコワーキングスペースの利用価値をどう思いますか?
岸上:全然ありだと思います。実際に、家でどうしようもない時や集中したい時は、梅田のコワーキングを借りていました。子どもに静かにしてというと、子どもとギクシャクするので、関係性を保つためにも有効な場所です。まちの中に、ただ仕事をするためではない人も関われるようなコワーキングスペースがもっと関西にも増えて欲しいです。
永野:今後、使いたいと思いました。それが近所の商店街の中にあったらいいなと思います。
寺内:私も自宅と職場の距離があるので、コワーキングスペースを積極的に活用しています。社内のコミュニケーション形成において、リアルで対面がいいのかオンラインがいいのか、両面のメリットをどう活かすのか、社内でも検討中です。
前田:今後、大阪で住まうという魅力について、どう思われますか。これからの住まいについての展望も教えてください。
岸上:一番の魅力は多様性。子育て世代もいるし、お年寄りもいる、いろんな世代が住んでいます。色んな多様な価値観を知れたり、いろんな友人ができたり、それが大阪市の魅力であり都市部の魅力だと感じています。「まちの中も家族」という生活を実現できるのが魅力です。
永野:やはり職住近接というのはメリットです。実際に、災害が起こったときにも電車通勤を自転車通勤に変えられましたし、子育てにおいても緊急の対応がしやすいです。都心部に距離的に近いというのは、生活の対応の幅が広がるということを実感しました。あとは、まちそのものの魅力。少し歩くだけで、下町の風景に出会える面白さがあります。
寺内:大阪の魅力は、まちのコミュニティがあること。物理的な距離ももちろん、心の距離が近いと感じます。育児、介護などライフスタイルに応じて、その地域のコミュニティをいかした大阪らしいまちづくり、住まいづくりが求められていると思います。
宮原:今後コロナと2、3年付き合っていく状況が続く可能性がある中で、仕事と生活をどう捉え直すか考えるきっかけにしていかなければいけないと考えます。仕事を中心に生活を考えてきたこれまでのあり方は、オフィスと住宅という空間が象徴的にありました。永野さんと岸上さんは、生活の上に仕事があり、近い距離で生活をする中できちんと仕事を取り入れられています。これから生活と仕事をどう取り入れていくか考えていく中で、その一つの可能性として地域における仕事場、環境も含めた改善につなげていけると思っています。
前田:コロナをきっかけとして、住宅とは何なのか、また、身近な生活圏の質について見直すことになりました。今日のお話で、大阪には、都心部にオフィス、その周りには下町のコミュニティがあり、コロナに負けない生活圏としてのポテンシャルがあるということがわかりました。感染に対する安全は一番大事だけれど、その中で人間らしく健全に暮らすことが大事だと気付きました。今はその最適なバランスを見出そうとしている段階です。つくり手としては、ある物を最大限に活かし、ないものをつくり出す。住宅でもないオフィスでもない、“第三の場所”への期待も含めて、今後を展望させていただきました。
WITH/AFTERコロナ 住まい・まちづくりはどう変わる
~テレワークと住むまち大阪を考える~
令和2年11月23日に「令和2年度 大阪市立住まい情報センターシンポジウム」が開催されました。WITH/AFTERコロナの時代に向けて、在宅勤務やモバイルワーク、サテライトオフィスなどを指す「テレワーク」という働き方が広がっています。基調講演やパネルディスカッションでは、研究やデータを紐解きながら、実際の住まい手の声から現状を浮き彫りにし、テレワークと住まい、そして、住むまち大阪を考えるきっかけとなりました。
1.基調講演「WITH/AFTERコロナ 住まいはどう変わる」
講師:宮原 真美子 氏 シェア居住、他世代交流拠点、コロニアル住宅バンガロー、アジアの公共住宅などをキーワードに世界各国の住まい研究に取り組む。著書に『シェアハウス図鑑』(共著)。 |
緊急対応期と小康状態を繰り返しながら進む
働き方改革のなかで、2000年以降広がってきている「テレワーク」。在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィスなど、オフィス空間に制約なく、有効活用できることが利点の働き方を指します。この度の緊急事態宣言が後押しとなり取り入れる企業が増加しました。実施状況には、東京23区と地方では開きがありますが、内閣府のデータだと全体的に3割の人が何かしらテレワークを実施しているというデータが出ています。
新型コロナ感染症の第三波が来ていると言われる中、今後自分たちの暮らしを、どう考えていかなければならないのか。これまではオフィスか住宅か、働く場所はほとんど二択でしたが、テレワークが導入されるということで、オフィスで行われていた作業が住空間の中に入ってくることとなりました。そうなると、住宅と施設の役割を両面で考えていく必要が出てきます。
新型コロナウイルス感染症には、緊急対応期と小康状態を繰り返しながら進んでいくという特徴がみられ、個人と集団の住まい方や働き方に求められる行動変容と、それらが定着していく過程をきちんと捉えていく必要があります。
緊急事態宣言下の住まいの実情は、テレワークによりどう変わったのか?今回、在宅勤務について、アンケート調査とオンラインインタビューを実施。209事例のアンケート調査と、30事例のオンラインインタビューにより、在宅時間の空間的課題、勤務・育児・家事・余暇などの課題やこれからの住環境とオフィス環境の改善について、調査データから考えていきます。調査データの一部は、Facebook Work Well Home with COVID-19にて報告していますので合わせてご覧ください。
専用のワークスペース確保の難しさ
「自宅内のワークスペースの確保状況」について、リビング、ダイニングを活用したという回答が全体の8割強で、専用の個室がない状態が多数という結果でした。ワークスペースに、寝室やベランダで代替えして活用する事例もみられます。どの世代も共通して、専用のワークスペースを持つのは難しい現状だったことがうかがえます。
住宅面積からみると、40平米を越えるとワークスペースの独立性が高くなり、世帯別で見ると、夫婦子どもの共働き世代だと、ワークスペースの独立性は低くなっています。テレワーク実施により家庭に増えた機器・家具類については、机、椅子、クッションなどの腰の負担を軽減するアイテム、照度の高い照明などがあげられ、オフィス家具と住宅家具は兼用しにくいという弊害も垣間見えました。
創意工夫が見られる多種多様なワークスペース
アンケートで、自宅内のワークスペースの写真を提供いただきましたが、キャンプ用のテーブルをリビングテーブルに繋げたり、寝室の一角に折り畳み机を設置したりするケースなど、様々な試行錯誤が見られました。オンライン会議対応中に、子どもの声や家事の生活音が入らないようにするのが大変だったという声も多く、同じ空間にいることで、互いの音が干渉し合う。どう回避するのかという問題の中、オンライン会議は寝室や洗面室、洗濯機の上を使っているという事例も興味深いものでした。全く違う行動をする人同士が同じ空間にいる場合、どう空間を切り分けるべきかという問題が浮き彫りになりました。
また、仕事中の姿勢、体の向きなども問題となりました。並んだり向き合ったり、リビングのローテーブルは高さが合わず立ったままで仕事をするなど、住宅のあり方を改めて考えさせられました。しかし問題ばかりではなく、妊婦さんが床に座って体勢を変えながら仕事ができたという在宅ならではのメリットのある事例もありました。不向きな自宅の空間や家具をなんとか駆使して、長時間仕事を行うために、創意工夫をしながらテレワークを行っている様子でした。
世帯や空間のしつらえによって変容する
次にオンラインインタビューの結果、5パターンの世帯(共働き夫婦、子育て世代2組、産休中子育て世帯、単身世帯)の事例を紹介。音の問題を解消するために、時間ごとに空間を使い分けてワークスペースを確保している事例や、幼い子どものタイムスケジュールに合わせて、仕事を組み立てることで、テレワーク以前とは一日のスケジュールが変化したという事例もありました。窓が三方向にある事例では、窓を見ながら一日の流れや外の様子を感じられるということを非常に重要だと感じました。どの事例においても、テレワークとなっても仕事をしている時間の長さは変わらないが、一日の時間の組み立て方が大きく変わってきています。
またシェアハウスの事例では、各自が暮らす個室を出て、共有スペースに出勤するようなスタイルでテレワークを行っていました。買い物はシェアハウスの居住者で、時間のあるときにまとめて行ったりする事例も。生活の軸の合間に、仕事を組み込んでいるようなスタイルも見えました。シェアハウスに住んでいるということで生活の共有性が生まれているということにおもしろさを感じます。
中間領域にひろがる、働き方のオルタナティブ
非常事態宣言により、感染に対して安全であるために空間・時間を共有しない行動変容が迫られました。一方で、感染の不安の中で健全であるために空間・時間を共有することをどこまで許容するかが生活の質につながりました。
これらの調査結果で見えてきた課題がいくつかあります。まず、ワークスペース確保の難しさでしょう。オフィス家具と生活家具の違いにより仕事が継続しにくくなっており、なかでも音の問題(オンライン会議、生活音、子どもの声)は大きな課題で、オンライン会議時には、物理的に空間の独立性が必要です。職種や世帯構成によっても、働き方や空間づかいも異なってくるため問題も多種多様です。いっぽうで、プラスに働いた面もあります。家族との食事が増えたり、子ども中心でスケジュールを組めるようになったりするなど、仕事に合わせた生活から、生活に合わせて仕事をするという価値の転換も起こっていました。オンラインツールを用いて、多様な働き方ができる、自由な働き方の可能性も十分に感じられます。
緊急事態宣言時を、豊かに過ごせたかどうかの大きな差は、平時からコミュニティとどのくらい関わっていたかでも変わってきます。コロナ禍の状況下で、生活の質を上げていくためには、空間や時間をどこまで、共有するかしないのかの線引きをどうしていくのかを、各自見極める必要があります。健全に暮らすためには、コミュニティや自宅周辺の生活圏の見直しも必要ではないでしょうか。
これからは、オフィスか住宅のどちらかという考え方ではなく、その中間領域に働き方や働く場所のバリエーションが増えていく可能性があります。生活圏の中で、仕事場をどこに確保するかも新たな選択肢。例えば、郊外の駅近コワーキングスペースや地域コミュニティ施設の解放など、まち側が働く人に、提供できるなにかがもっとあるかもしれません。働き方のオルタナティブを今後見守っていきたいです。
2.パネルディスカッション
「テレワークと住むまち大阪を考える 」 〜前編〜
第2部前編は、株式会社リクルート住まいカンパニー関西拠点長の寺内 正裕氏による、行動変容の変化について(SUUMO調べ)のデータの解説、続いて、大阪市旭区住まい手である永野 真也 氏と大阪市北区の住まい手である岸上 純子 氏による、コロナ禍における各自の暮らし方が報告されました。
寺内 正裕 氏 2014年よりSUUMOカウンター推進室 注文関東1部部長、2016年より関西・東海注文住宅営業部長。2019年より関西戸建流通営業部部長 兼 関西拠点長。 |
変化のベースは、「在宅勤務」「感染リスク低減」
コロナ禍での住み替え行動変容の状況を、住宅購入検討者向けに行った調査(2020年5月・9月実施)によるデータをもとに紹介します。コロナ禍のテレワーク経験は、大阪では64.8%、東京では71.1%、その他44都道府県では、38.5%という現状です。暮らしにおいては、9月調査でも外食する機会が減った人は半数以上にのぼり、家の中で余暇を過ごす機会が増えたのは、3人に1人でした。
住まい探しをするきっかけになったという声は増えており、注文住宅への希望が高くなっています。通勤時間の許容は、車で15分、30分以内が増加。戸建て思考と家の広さ志向に重きを置かれている様子がうかがえます。今後住み替えたい住宅の需要は?という質問に対しては、リビングを広く、個室は狭くてもいいから部屋数が欲しいという声が40%以上。テレワークについても、84%がテレワークを続けたい・実施したいという意見が出ています。
また、郊外化への動きは限定的で、関西ではそこまで進んでいません。今回のコロナを機に、賃貸住宅で在宅ワークをしていた20代後半から30代のプレファミリーが、予定より2、3年早めに動いているようです。高額物件の売買やランクアップの買い替えについては、様子見の状況が続いています。
住むまちにより求めるようになったもの
家で過ごす時間が増えてきている中、住むまちの基準の変化を見ていきます。「住みたい街ランキング」では、梅田、西宮北口などのターミナル駅、商業施設がそばにあるまちが、前回調査とあまり顔ぶれ変わらず人気でした。大阪の「愛されている街ランキング」では、1位中之島、2位四ツ橋、4位四天王寺前夕陽ヶ丘、5位中崎町など、大阪市内の中心部の駅が多くランクイン。比較的住環境が安定している、徒歩圏内で欲しいものが揃うコンパクトなまちが求められています。
中でも1位の中之島は、住民に今後の発展を期待されています。日常の買い物だけでなく、文化やスポーツなどを近くで楽しめ、病院なども充実しており、近年、住むまちとして注目されています。人が行き交うまちとして人気が高まってきています。
コロナ禍を受け、公園や商店街の役割があらためて注目されており、住むまちには、歩く範囲で日常のものがひととおりそろうことや、住民同士の交流が盛んであることが求められるようになってきています。様々な感覚を満たせる多様な側面を持つまちが、今後人気を高めていくと考えられます。
永野 真也 氏(旭区 住まい手) 建築設計事務所に勤務。結婚を機に大阪市旭区に移住。「千林かいわいの暮らしを“もっと”楽しくする」活動である「1000ピースプロジェクト」の立ち上げに参加。現在家族3人で旭区生活を満喫中。 |
旭区に住まうこととテレワーク
旭区を居住地に選んだ理由は、夫婦共々、職場が谷町沿線で通勤の便がよかったことと、千林界隈がなんとなく暮らしやすそうだなという直感からです。「千林かいわいの暮らしを“もっと”楽しくする」ことをテーマにしている地域活動である「1000ピースプロジェクト」の立ち上げに参加して、商店街の店主や様々な年代の住民と夫婦共々に知り合いになる機会がありました。全く違う土地からきた自分が、まちのあちこちに知り合いができたことで、家をここに構えようと決めました。現在は、中古物件をフルリノベーションした一軒家で、家族3人で暮らしています。
緊急事態宣言中は、生活も状況も一変しました。私は週に1回会社の出社、妻は2日に1回の出社という中、夫婦入れ替わりで子どもの面倒を見ながらテレワークをしているという状況でした。子どもがあまり目を離せない年頃ということもあって、通常レベルの仕事は諦めて、宣言が開けるまではやり過ごそうと、その場しのぎで乗り越えていきました。
仕事場はダイニングテーブル。ノートパソコンはありましたが、テレワークのためにモニターとキーボードを新しく購入しました。照明も昼白色にも切り替えられるものに交換しました。食事時に書類が片付けられるように書類ケースも購入しました。ダイニングの椅子が一日中座るには少し不向きだったので、少し背の高いスツールにときどき座り替えることで腰の負担を軽減していました。ダイニングでパソコンとスマホ、PCモニター、タブレットに囲まれていましたが、大量にある書類の管理が大変で、ペーパーレス化の必要性を強く感じました。また、デジタルコミュニケーションツールへの理解に世代による差があり、社内連携の低下を感じました。
仕事面では多々問題もありましたが、家族で同じ時間を共有する時間が増えてよかったです。子どもも1人で上手に遊べるようになり、自宅周辺を散歩する中で、普段の生活の中ではなかなか会うことのない、「1000ピースプロジェクト」のメンバーに出くわすことがあり、宣言期間中の閉塞的な時期に楽しいリラックスする時間となりました。
テレワークについていえば、メリットを生み出せる職種は限られていると感じています。コロナ後、テレワークを基本とする企業は、中小企業だと難しいのではないでしょうか。共働き世帯で、子どもの世話をしながら仕事も止められない場合やワークライフバランスを整えることを目的に、休みと出勤の中にある新しい選択肢として、今後、柔軟に活用できればいいのかと思います。
岸上 純子 氏 北区中津の中津商店街内にある大正2年築の長屋を改修した事務所兼自宅で仕事と子育てをしながら、商店街を始め、うめきた周辺のまちづくり活動も行っている。 |
プライベートとパブリックの境界線
中津商店街にある長屋を購入して自分たちでリノベーションした事務所兼自宅を構えています。学生の頃から中津に遊びに行ったりしてまちのことを知っており、中津商店街がさびれてしまっていることも知っていました。自分ごととしてまちに関わっていきたいという思いもあり、移り住みました。
私は、設計事務所での仕事の他に、専門学校での特任教員、大学での非常勤講師もしており、妻・嫁・母でもあります。住まいは、1階が建築設計事務所(夫と共同主宰)、2階が自宅という職住一体の生活で、1、2階ともほぼワンルームの空間で、家族の中のプライバシーはそんなにいらないと思い個室を作っていませんでした。これまで週1、2日と早朝・夜のみであった事務所での仕事が、緊急事態宣言にともない、いざテレワークが始まると、夫が仕事をしている空間で、大学のオンライン授業をすることになりました。もともと職住一体の住まいとなっているため、当初は簡単に考えていました。建築図面を書くのは、人が隣にいても大丈夫ですが、オンライン授業では、画面に向かってずっと話をしている状態なので、斜め前に座って仕事をしている夫は仕事がはかどらない状況になりました。座る位置の距離を取ってみたり、2階に移動したり、試行錯誤の末、子どものおもちゃを収納する押入の棚板の上にたどりつきましたが、最終的には、外が見える窓台の上に落ち着きました。半年間で、4回家の中で仕事場が変わりました。個室を設けないワンルームの間取りで、これまでは心地良い暮らしができていましたが、今回、家族のプライベートに全く違うところからパブリックが入り込んでくるという、プライベートとパブリックの境目の複雑さを感じました。
中津は、梅田からほど近い場所ですが、昔ながらの下町の風景があり、地域コミュニティが残っています。このような環境で、夫婦だけで子育てするのではなく、地域で見守ってもらい、多様な人たちと関わりながら、子どもに成長してほしいと思いました。また、お年寄りや他の子どもたちをお互いに見守りながら暮らしていける場所だと思っています。家の斜め前にある駄菓子屋には、子どもは毎日100円握り締めて通っています。仕事で遅くなるときには、駄菓子屋のおばちゃんに子どもを見てもらったりもしています。地域で子育てしてもらうところに魅力を感じています。
3.パネルディスカッション
「テレワークと住むまち大阪を考える 」 〜後編〜
第2部・後編は、コーディネーターの前田 昌弘 氏(京都府立大学大学院生命環境科学研究科准教授)の司会進行のもと、テレワークと住むまちとしての大阪、今後の暮らし方について、寺内 正裕氏、永野 真也 氏、岸上 純子 氏、コメンテーターとして宮原 真美子 氏を交えてパネルディスカッションが行われました。
コーディネーター:前田 昌弘 氏 専門は建築計画学、住居・まちづくり、災害復興・防災。京都を主とする国内の住まい・まちづくりから国内外の災害復興、コミュニティ支援まで研究と実践を展開している。 |
前田:住み手の視点からご報告とご意見をくださった永野さん、岸上さん。住宅供給者側からデータにもとづいてお話いただいた寺内さん、空間の使い手の調査研究にもとづいてお話しいただいた宮原さん。それぞれのお話を聞かれて、どのような感想を持たれたでしょうか?
岸上:宮原さんの研究結果には共感しました。それぞれの方が自分の家で仕事をするのに、少しでも心地よいスペースを探して見つけていました。これからの建築設計に活かせるお話でした。これまでは与えられた場所にこう住むべきだと思っていた人が、テレワークを経験して、パーソナルスペース、家族とのスペースなど家での暮らしについて改めて、真剣に考えた機会になったと思います。一般の方が建築や住環境について、自分ごととして考えてもらえることは、建築に携わる人間として嬉しく思います。
永野:宮原さんのお話にすごく共感しました。住まいへのニーズはライフステージによっても大きく変わってくると思います。寺内さんのお話で意外と郊外に人が流れていないというのは実感通りでしたが、今後どうなっていくのか気になります。テレワークについては、今後、社会の中にどう落としこまれて、オフィスの形が変わったりしていくのか経過を見つめていきたいです。
寺内:あらためてリモートワークは働き方改革のひとつの方法だと感じました。そのメリットを体現しているのが永野さん。一方で、デメリットとして、通信環境や印刷物のやりとり、会社としてのセキュリティー面の問題も残っています。働き方改革のなかでメリット・デメリットをどう生かしていくかが今後の課題ですね。パブリックとプライベートの分離についても、リモートワークをする上で工夫の余地があると感じました。
前田:宮原さんの話のなかで自宅のソファで仕事をする事例がありました。日本の住文化の特徴として、椅子座と床座が混在する生活様式があります。本来リラックスする場所であった住まいで仕事に集中することは意外と難しく、必要だからと言って簡単には人の行動は変容しません。また、岸上さんの話では、プライベートな空間にパブリックな関係が入り込んできたことで暮らし方を見直さなければならなかったという話も興味深かったです。これは、自宅でテレワークをする上で、皆に共通して起きている問題なのではないでしょうか。歴史をふりかえると、住宅には住むだけではなく、働く、子育て、調理、食事、接客など、様々な機能がありました。近代化の過程で家の外に放り出さた機能が今回のコロナ禍で家に舞い戻ってきたことで、私たちは今、試行錯誤を強いられているのではないでしょうか。
宮原:在宅ワークを強いられた中で、ワークスペース難民になっています。これをどう解決するかは、次のまちづくりを考える上で重要だと思います。ないものをまちに求めるのか住まいに求めるのか。その取っ掛かりをまちで持つこと、空白地帯が重要だと思います。もともと生活は、まちに根付いているもの。まちと人が関係を作るフックになればと思います。まちの近所にあるフリーアドレスのコワーキングスペースの利用価値をどう思いますか?
岸上:全然ありだと思います。実際に、家でどうしようもない時や集中したい時は、梅田のコワーキングを借りていました。子どもに静かにしてというと、子どもとギクシャクするので、関係性を保つためにも有効な場所です。まちの中に、ただ仕事をするためではない人も関われるようなコワーキングスペースがもっと関西にも増えて欲しいです。
永野:今後、使いたいと思いました。それが近所の商店街の中にあったらいいなと思います。
寺内:私も自宅と職場の距離があるので、コワーキングスペースを積極的に活用しています。社内のコミュニケーション形成において、リアルで対面がいいのかオンラインがいいのか、両面のメリットをどう活かすのか、社内でも検討中です。
前田:今後、大阪で住まうという魅力について、どう思われますか。これからの住まいについての展望も教えてください。
岸上:一番の魅力は多様性。子育て世代もいるし、お年寄りもいる、いろんな世代が住んでいます。色んな多様な価値観を知れたり、いろんな友人ができたり、それが大阪市の魅力であり都市部の魅力だと感じています。「まちの中も家族」という生活を実現できるのが魅力です。
永野:やはり職住近接というのはメリットです。実際に、災害が起こったときにも電車通勤を自転車通勤に変えられましたし、子育てにおいても緊急の対応がしやすいです。都心部に距離的に近いというのは、生活の対応の幅が広がるということを実感しました。あとは、まちそのものの魅力。少し歩くだけで、下町の風景に出会える面白さがあります。
寺内:大阪の魅力は、まちのコミュニティがあること。物理的な距離ももちろん、心の距離が近いと感じます。育児、介護などライフスタイルに応じて、その地域のコミュニティをいかした大阪らしいまちづくり、住まいづくりが求められていると思います。
宮原:今後コロナと2、3年付き合っていく状況が続く可能性がある中で、仕事と生活をどう捉え直すか考えるきっかけにしていかなければいけないと考えます。仕事を中心に生活を考えてきたこれまでのあり方は、オフィスと住宅という空間が象徴的にありました。永野さんと岸上さんは、生活の上に仕事があり、近い距離で生活をする中できちんと仕事を取り入れられています。これから生活と仕事をどう取り入れていくか考えていく中で、その一つの可能性として地域における仕事場、環境も含めた改善につなげていけると思っています。
前田:コロナをきっかけとして、住宅とは何なのか、また、身近な生活圏の質について見直すことになりました。今日のお話で、大阪には、都心部にオフィス、その周りには下町のコミュニティがあり、コロナに負けない生活圏としてのポテンシャルがあるということがわかりました。感染に対する安全は一番大事だけれど、その中で人間らしく健全に暮らすことが大事だと気付きました。今はその最適なバランスを見出そうとしている段階です。つくり手としては、ある物を最大限に活かし、ないものをつくり出す。住宅でもないオフィスでもない、“第三の場所”への期待も含めて、今後を展望させていただきました。