水と大阪の住まい・まち
災害に備えて 第2回
一級建築士
(公社)日本建築家協会近畿支部大阪地域会 前地域会長
荒木 公樹(あらき まさき)
水は、私たちが生きる上で不可欠な存在です。恵みを与えてくれる一方、水害や建物を傷めるというように住まいやまち・都市にとって災いをもたらすこともあります。水と住まい・まちとの関係について、知っておいてほしいことがあります。
私たちの暮らす大阪は、太閤秀吉による東横堀川を皮切りに、江戸時代には多数の運河が開削されました。これにより大阪が舟運を通じて日本の物流・商業の中心地となる基盤ができあがります。これは大阪が低地であるからこそ成し得たことです。大阪は上町台地を除き内陸まで海であったこと、淀川や大和川を通じて京都・奈良から大量の土砂が流れ込んでできた砂州であることを理解しなければなりません。
大阪のような低地では、津波や河川氾濫といった水害の中でもまず高潮に注意が必要です。昭和9(1934)年の室戸台風では高潮により多くの貴い命が犠牲になりました。この経験から湾岸地区での防潮施設の整備をはじめ治水に向けた多くの取り組みがなされています。平成30(2018)年9月の台風21号では大阪市街地の高潮による浸水の被害は回避できましたが、自分たちの暮らすまちはどのような被害を想定しなければならないのか、ハザードマップや標高地形図の確認を通じて理解を深めましょう。
住まいと水との間には深い関係があり、特に木造住宅では水への対応がその寿命を決めると言えます。柱・梁等の構造体は湿潤状態にある場合、腐朽菌の繁殖(腐朽)や白蟻の活動(蟻害)により、本来の強度、つまり耐震性や耐風性を発揮することが難しくなります。そのためには、住まいにできるだけ水を近づけず、かつ早く追い出す工夫が必要です。具体的には、屋根の勾配をきちんと取る(水を早く追い出す)、軒・けらばの出を確保する(外壁を濡らさない)、壁と屋根に通気層を設ける(外から侵入した水と室内からの水蒸気を排出する)ことが大切です。
現代では、シンプルなデザインが好まれ、建築費や敷地に余裕がないからといって軒・けらばの出を確保しない設計が多くなっていますが、住まいの寿命を縮めることになりかねないものです。敷地境界ぎりぎりまで建てるのではなく、スペースを確保することで外壁や設備配管のメンテナンスも容易になり、結果として住まいの長寿命化につながります。
自分たちの暮らすまちがどのような場所であるかについて知るとともに、住まいを健全な状態に保つことが防災への第一歩です。一方、中之島公園や桜之宮公園など、そこに水があるからこそ大阪を代表する景観が生まれることも大切な事実です。日常生活を良好に維持するために、ご自身がどのような住まい・まちに住むのかじっくりと考えてほしいと願います。
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