大阪市立住まい情報センター 平成24年度シンポジウム報告 第1部
大阪市立住まい情報センター 平成24年度シンポジウム
「学ぼうさい」
災害時に正しく判断・行動できるように日頃から学びながら備えていこうと、昨年11月25日、大阪市立住まい情報センターでシンポジウム「学ぼうさい」が行われました。防災・減災のコツが詰まった坂本廣子さんの基調講演、楽しい防災教育のあり方などを紹介した永田宏和さんのミニワークショップに続き、災害を体験したり知識を吸収するサバイバルラリーに参加者は積極的に参加。防災に対する関心の高さがうかがえました。
第1部
基調講演
「地域が助かる 地域で助ける がんばらない台所からの減災術」
坂本 廣子氏
相愛大学客員教授、キッズキッチン協会副会長、農林水産技術会議委員、サカモトキッチンスタジオ主宰
http://www004.upp.so-net.ne.jp/skskobe/
「自助」と「共助」の準備を
大災害が起きた時に失うのは「日常」です。晩ごはんをつくろうと思っても、買い物をする市場が壊れた、料理をするための水も電気もガスもない・・。「ごはん指数」と呼んでいるのですが、ごはんに代表される日常が消えるのです。壊れたライフラインや建物を修復する一方で、どうすれば「地域の中での普通の暮らし」を取り戻せるのか、今日は身近な台所からの減災術を考えていきましょう。
どんな場合でも、何より大切なのは生きていること。災害時のライフセービングには「自助」「共助」「公助」があります。自治体や消防署、警察などは一生懸命動いてくれますが、被災地にいる市民は多すぎて、すべてには行き渡りません。ですから公助はないものと思っておき、自分で備える「自助」、地域で助け合う「共助」を準備しておいた方が日常を早く取り戻しやすくなります。
命を守るために日頃から訓練しておきたいのは心肺蘇生法(CPR)。最近では身近でAED(自動体外式除細動器)が設置されるようになりました。病院や消防署、区役所などで使い方を学習する機会もあります。体験しておけばいざという時に役立ちます。
内閣府の防災情報ページ(www.bousai.go.jp)やお住まいの自治体のホームページも日頃から目を通しておきましょう。
熱心に聴き入る聴衆
水と安全の確保を
飲料水は1人あたり1日2リットルが必要です。ライフラインが止まると水の確保や運搬が大変に。バケツやペールを用意しておくか、ガムテープで補強したダンボール箱にポリ袋を入れ、水を運びます。水は20リットルでほぼ20kgと重いので、20リットルバケツを1個よりも、10リットルバケツを2つ用意しておいた方が誰でも運びやすくなります。
被災すると、あまり清潔でない環境で暮らさなければならないこともあります。ペットボトルから水分をとる時には口をつけず飲み、炊き出しのおにぎりはラップに乗せて握り、お裾分けする食料もラップで包むなど、安全性を守るために注意しましょう。濡れティッシュやキッチンペーパーも、手や体を拭いたり、掃除に使えます。
まな板が洗えない・使えない時には、キッチンばさみで具材を刻む「空中調理」、直接手でもたずポリ袋やラップ越しにする「紙一重調理」、ポリ袋を利用して漬け込む・まぶす・こねる・混ぜるの「ポリ袋調理」など安全な方法で調理します。
台所からの減災術として大事なのは、食中毒をおこさないために菌を「つけない・増やさない・殺す」が三原則。除菌スプレーや熱湯をかけるのも賢明です。
普段から食品をストックする
災害時に備える食品のストックにはコツがあります。エネルギー源として役立つのは、乾麺、ラーメン、もち、粉類など。缶切りのいらない缶詰やビスケット、クラッカー、コーンフレークなどそのまま食べられるものも、いざという時に便利です。
たまねぎ、にんじん、ごぼう、芋類など日持ちのする野菜は日頃から常備しましょう。被災すると新鮮なものが手に入れにくくなるので、乾物、梅干し、海苔、海草類、高野豆腐、切り干し大根、ドライフルーツなどを保存しておき、活用します。ただし、日頃から食べていないものは被災時にも食べられません。普段から食べ慣れておきましょう。
食品や飲料などのストックの原則は「先入れ先出し」。新しいものほど奥に置き、手前の古いものから使っていきます。賞味期限切れに注意して、1個使ったら1個補充する“ランニングストック”という考え方で回していってください。
とても重要なことは、大人と比べ子どもはまだ脳の発達が途上期で、脳の発達には必須アミノ酸が必要だということ。避難生活が長引き、それらが不足してくると発達が遅れるだけでなく後戻りすることもあります。あんこのはいった羊羹、炒り豆など豆製品を必ずストックし、被災した時には子どもにコンスタントにそれらを摂取させてください。
寝室から逃げられる準備を
就寝中に被災することを考え、スリッパや靴などは手近なところに置き、夏でも薄手でいいので長袖長ズボンのパジャマを着ましょう。寝室にはなるべく家具を置かず、置く場合には、タンスの上部につっかえ棒をしたり天井まできっちりはまる箱を乗せたりして倒れない工夫をします。窓のカーテンは長めにして常に閉じておきましょう。外から植木鉢などが飛んできて窓ガラスが割れても、カーテンが飛散を防いでくれます。
いくら避難袋・持ち出し袋を準備していても、押入れの奥にしまいこんでいたら緊急時に簡単に持ち出せません。まずはいつも使っているバッグに少し加えたものを「第一次避難袋」とします。それには小額単位のお金、銀行のカード、自分名義の通帳、印鑑、家の鍵など重要なものを忘れずに。次に、1、2日分の常備薬やケアクリーム、飴など甘いもの、歯ブラシ、塩など“健康にかかわる”ものを加えます。飴などは低血糖防止に。歯ブラシは、病気にならないよう常に口の中を清潔にするために。水ばかり飲むと低ナトリウム症になるリスクがあるので、塩も入れておきます。これらは防災のためだけでなく、持っていれば普段の生活にも役立ちます。
とげぬき、耳かき、輪ゴム、ひも、ルーペ、メジャー、小さいはさみ、ソーイングキット、箸など身の回りのものは小さなポーチにまとめ、バッグに入れておきましょう。自宅を離れたり助けを呼んだりする時の確認や護身用に、書き置きを残せるマジックインキ、助けを呼ぶ笛や鈴、小さいライト、小さな水のボトル、粉塵を防ぐマスクなどもバッグに入れておきます。スカーフも1枚入れましょう。週刊誌にスカーフを被せればヘルメット代わりになり、子どもをだっこしたり、ケガをした時に腕を守るにも役立ちます。
参加者と話す坂本さん
日常生活の中で練習を
避難生活中に必要となる生活用品もまとめておきます。大きさの違うポリ袋、ラップ、アルミホイル、ラジオ、充電器、ねじまわし、ガムテープ、食器など。棘やガラスから手を守るためには、軍手より園芸用の手袋がベターです。ペットの猫などと一緒に避難する時は、目の細かいランドリーバッグに入れて肩下げ袋に入れて運びます。
タオルは新品ではなく、よく水を吸う使い慣れたものを。刃物など危ないものはカバーしておきます。お花見の時に使うブルーシートやキャンプ用品、ロープ、ハンマーやバール、ジャッキなども用意しておきます。ロープはもやい結び(船を係留する時の、ゆるまない結び方)をできるよう普段から慣れておきましょう。
震災の時に急に知恵が湧くのではなく、普段から考えたり準備したりしておくことで、いざという時に知恵となって役立つのです。日常生活の中で練習や準備が大切なのです。
情報はアナログで集約を
最近は、携帯電話やスマートフォンに頼りがちですが、充電できなかったり、子どもだけが残されている時には、携帯機器の中に記憶させた情報が取り出せません。銀行口座や両親や親戚の連絡先、家族の持病や薬など大切な情報は誰でもわかりやすいよう、アナログな方法ですが一覧表などに書き出しておく方が使いやすいと思います。
日頃から日常を大切にしながら暮らすこと、そして万一被災した時には日常に戻るために工夫することが大切ですが、がんばりすぎてはいけません。過酷な体験をした後に起こるPTSD(心的外傷ストレス障害)が被災者、特に子どもには深刻な問題となっています。一方で、心にキズが残った状態に留まるのではなく、災害という過酷な体験を経たからこそ人は大きく成長するというPTG(心的外傷後成長Post Traumatic Growth)も注目されています。
生き延びた知恵を糧に暮らし、次の世代へ伝えていきたいもの。どんな時でも生き抜く力をつけていきましょう。
被災時には有効な代用作戦(坂本廣子・坂本佳奈著『台所防災術』より)
照明器具には 500ccのアルミ缶をカッターで切り開いて開き、ロウソクを缶底に置いて、アルミをロウソクの反射板にする。
調理器具には 工事用のペグ(ロープを通す穴のあいた金属製の棒、55cm以上)3本とコンクリートブロックでかまどに。普段から飯を鍋で炊く方法も知っておくこと。
トイレには 1〜2リットルサイズのペットボトルの上部3分の1を切り、漏斗のようにしてかぶせれば小便容器。ふたに押しピンで2、3個穴をあけるとシャワーの代わりに。大便は新聞紙を箱型に折って用を足し、ポリ袋へ。紙、便、尿で3分別して捨てる。
イラスト:岩間 みどり
大阪市立住まい情報センター 平成24年度シンポジウム
「学ぼうさい」
災害時に正しく判断・行動できるように日頃から学びながら備えていこうと、昨年11月25日、大阪市立住まい情報センターでシンポジウム「学ぼうさい」が行われました。防災・減災のコツが詰まった坂本廣子さんの基調講演、楽しい防災教育のあり方などを紹介した永田宏和さんのミニワークショップに続き、災害を体験したり知識を吸収するサバイバルラリーに参加者は積極的に参加。防災に対する関心の高さがうかがえました。
第1部
基調講演
「地域が助かる 地域で助ける がんばらない台所からの減災術」
坂本 廣子氏
相愛大学客員教授、キッズキッチン協会副会長、農林水産技術会議委員、サカモトキッチンスタジオ主宰
http://www004.upp.so-net.ne.jp/skskobe/
「自助」と「共助」の準備を
大災害が起きた時に失うのは「日常」です。晩ごはんをつくろうと思っても、買い物をする市場が壊れた、料理をするための水も電気もガスもない・・。「ごはん指数」と呼んでいるのですが、ごはんに代表される日常が消えるのです。壊れたライフラインや建物を修復する一方で、どうすれば「地域の中での普通の暮らし」を取り戻せるのか、今日は身近な台所からの減災術を考えていきましょう。
どんな場合でも、何より大切なのは生きていること。災害時のライフセービングには「自助」「共助」「公助」があります。自治体や消防署、警察などは一生懸命動いてくれますが、被災地にいる市民は多すぎて、すべてには行き渡りません。ですから公助はないものと思っておき、自分で備える「自助」、地域で助け合う「共助」を準備しておいた方が日常を早く取り戻しやすくなります。
命を守るために日頃から訓練しておきたいのは心肺蘇生法(CPR)。最近では身近でAED(自動体外式除細動器)が設置されるようになりました。病院や消防署、区役所などで使い方を学習する機会もあります。体験しておけばいざという時に役立ちます。
内閣府の防災情報ページ(www.bousai.go.jp)やお住まいの自治体のホームページも日頃から目を通しておきましょう。
熱心に聴き入る聴衆
水と安全の確保を
飲料水は1人あたり1日2リットルが必要です。ライフラインが止まると水の確保や運搬が大変に。バケツやペールを用意しておくか、ガムテープで補強したダンボール箱にポリ袋を入れ、水を運びます。水は20リットルでほぼ20kgと重いので、20リットルバケツを1個よりも、10リットルバケツを2つ用意しておいた方が誰でも運びやすくなります。
被災すると、あまり清潔でない環境で暮らさなければならないこともあります。ペットボトルから水分をとる時には口をつけず飲み、炊き出しのおにぎりはラップに乗せて握り、お裾分けする食料もラップで包むなど、安全性を守るために注意しましょう。濡れティッシュやキッチンペーパーも、手や体を拭いたり、掃除に使えます。
まな板が洗えない・使えない時には、キッチンばさみで具材を刻む「空中調理」、直接手でもたずポリ袋やラップ越しにする「紙一重調理」、ポリ袋を利用して漬け込む・まぶす・こねる・混ぜるの「ポリ袋調理」など安全な方法で調理します。
台所からの減災術として大事なのは、食中毒をおこさないために菌を「つけない・増やさない・殺す」が三原則。除菌スプレーや熱湯をかけるのも賢明です。
普段から食品をストックする
災害時に備える食品のストックにはコツがあります。エネルギー源として役立つのは、乾麺、ラーメン、もち、粉類など。缶切りのいらない缶詰やビスケット、クラッカー、コーンフレークなどそのまま食べられるものも、いざという時に便利です。
たまねぎ、にんじん、ごぼう、芋類など日持ちのする野菜は日頃から常備しましょう。被災すると新鮮なものが手に入れにくくなるので、乾物、梅干し、海苔、海草類、高野豆腐、切り干し大根、ドライフルーツなどを保存しておき、活用します。ただし、日頃から食べていないものは被災時にも食べられません。普段から食べ慣れておきましょう。
食品や飲料などのストックの原則は「先入れ先出し」。新しいものほど奥に置き、手前の古いものから使っていきます。賞味期限切れに注意して、1個使ったら1個補充する“ランニングストック”という考え方で回していってください。
とても重要なことは、大人と比べ子どもはまだ脳の発達が途上期で、脳の発達には必須アミノ酸が必要だということ。避難生活が長引き、それらが不足してくると発達が遅れるだけでなく後戻りすることもあります。あんこのはいった羊羹、炒り豆など豆製品を必ずストックし、被災した時には子どもにコンスタントにそれらを摂取させてください。
寝室から逃げられる準備を
就寝中に被災することを考え、スリッパや靴などは手近なところに置き、夏でも薄手でいいので長袖長ズボンのパジャマを着ましょう。寝室にはなるべく家具を置かず、置く場合には、タンスの上部につっかえ棒をしたり天井まできっちりはまる箱を乗せたりして倒れない工夫をします。窓のカーテンは長めにして常に閉じておきましょう。外から植木鉢などが飛んできて窓ガラスが割れても、カーテンが飛散を防いでくれます。
いくら避難袋・持ち出し袋を準備していても、押入れの奥にしまいこんでいたら緊急時に簡単に持ち出せません。まずはいつも使っているバッグに少し加えたものを「第一次避難袋」とします。それには小額単位のお金、銀行のカード、自分名義の通帳、印鑑、家の鍵など重要なものを忘れずに。次に、1、2日分の常備薬やケアクリーム、飴など甘いもの、歯ブラシ、塩など“健康にかかわる”ものを加えます。飴などは低血糖防止に。歯ブラシは、病気にならないよう常に口の中を清潔にするために。水ばかり飲むと低ナトリウム症になるリスクがあるので、塩も入れておきます。これらは防災のためだけでなく、持っていれば普段の生活にも役立ちます。
とげぬき、耳かき、輪ゴム、ひも、ルーペ、メジャー、小さいはさみ、ソーイングキット、箸など身の回りのものは小さなポーチにまとめ、バッグに入れておきましょう。自宅を離れたり助けを呼んだりする時の確認や護身用に、書き置きを残せるマジックインキ、助けを呼ぶ笛や鈴、小さいライト、小さな水のボトル、粉塵を防ぐマスクなどもバッグに入れておきます。スカーフも1枚入れましょう。週刊誌にスカーフを被せればヘルメット代わりになり、子どもをだっこしたり、ケガをした時に腕を守るにも役立ちます。
参加者と話す坂本さん
日常生活の中で練習を
避難生活中に必要となる生活用品もまとめておきます。大きさの違うポリ袋、ラップ、アルミホイル、ラジオ、充電器、ねじまわし、ガムテープ、食器など。棘やガラスから手を守るためには、軍手より園芸用の手袋がベターです。ペットの猫などと一緒に避難する時は、目の細かいランドリーバッグに入れて肩下げ袋に入れて運びます。
タオルは新品ではなく、よく水を吸う使い慣れたものを。刃物など危ないものはカバーしておきます。お花見の時に使うブルーシートやキャンプ用品、ロープ、ハンマーやバール、ジャッキなども用意しておきます。ロープはもやい結び(船を係留する時の、ゆるまない結び方)をできるよう普段から慣れておきましょう。
震災の時に急に知恵が湧くのではなく、普段から考えたり準備したりしておくことで、いざという時に知恵となって役立つのです。日常生活の中で練習や準備が大切なのです。
情報はアナログで集約を
最近は、携帯電話やスマートフォンに頼りがちですが、充電できなかったり、子どもだけが残されている時には、携帯機器の中に記憶させた情報が取り出せません。銀行口座や両親や親戚の連絡先、家族の持病や薬など大切な情報は誰でもわかりやすいよう、アナログな方法ですが一覧表などに書き出しておく方が使いやすいと思います。
日頃から日常を大切にしながら暮らすこと、そして万一被災した時には日常に戻るために工夫することが大切ですが、がんばりすぎてはいけません。過酷な体験をした後に起こるPTSD(心的外傷ストレス障害)が被災者、特に子どもには深刻な問題となっています。一方で、心にキズが残った状態に留まるのではなく、災害という過酷な体験を経たからこそ人は大きく成長するというPTG(心的外傷後成長Post Traumatic Growth)も注目されています。
生き延びた知恵を糧に暮らし、次の世代へ伝えていきたいもの。どんな時でも生き抜く力をつけていきましょう。
被災時には有効な代用作戦(坂本廣子・坂本佳奈著『台所防災術』より)
照明器具には 500ccのアルミ缶をカッターで切り開いて開き、ロウソクを缶底に置いて、アルミをロウソクの反射板にする。
調理器具には 工事用のペグ(ロープを通す穴のあいた金属製の棒、55cm以上)3本とコンクリートブロックでかまどに。普段から飯を鍋で炊く方法も知っておくこと。
トイレには 1〜2リットルサイズのペットボトルの上部3分の1を切り、漏斗のようにしてかぶせれば小便容器。ふたに押しピンで2、3個穴をあけるとシャワーの代わりに。大便は新聞紙を箱型に折って用を足し、ポリ袋へ。紙、便、尿で3分別して捨てる。
イラスト:岩間 みどり