避難と住まいの再建
災害に備えて 第3回
京都大学大学院 人間・環境学研究科 准教授
前田昌弘
住まいは、災害から私たちの命を守るだけでなく、災害後の暮らしの再開の拠点にもなり、被災した地域の再生にとって欠かせないものです。日頃から住まいの維持管理を実践すること(本コラム第1回)や自分が住むまちのことを知り、住まいを健全な状態に保つこと(第2回)に加え、もし被災した時にどのように避難し、住まいを再建するのか、平時から意識し備えておくことが被害の軽減と素早い再建につながります。
「命を守る避難」と「生活を守る避難」
避難と一口に言っても、「命を守る避難」(evacuation)と「生活を守る避難」(sheltering)があります。災害時にはまず何より命を守る避難が優先ですが、近年の大規模災害では、被災をきっかけとして心身の健康を崩し、最悪の場合には死に至る、いわゆる「災害関連死」が増加しています。家族や近隣を含めた災害関連死を防ぐのは、生活を守る避難です。そして、その第一歩となるのが、建物の倒壊等の直接的な被害から命が助かった後の生活まで具体的にイメージし、なるべく安心して避難生活を送れる場所を想定しておくことです。
日常から日常へ避難するための備え
最近は避難所におけるTKB(トイレ・キッチン・ベッド)の配備等の重要性が認識され、行政が指定する避難所の環境に改善の兆しがみられますが、十分とは言えません。避難所以外にも自宅、親戚・知人宅など、避難先の選択肢を複数持っておくことが重要です。また、過去の災害では、近隣の商店や工場等の身近な場所が避難所の代わりになった例もあります。いざという時に誰かに頼れる場所を日頃からつくり、できればそこに災害時を想定した備蓄や設備を整えておく。そのような、非常時であっても日常を維持できる、「日常から日常へ避難する」とも言える備えが、避難先での孤立や負担を和らげてくれるはずです。
避難の先にある住まいの再建をイメージする
住まいの再建の課題は、被害の特性や状況によって異なり、災害時には「想定外」への対応が付き物です。しかし、災害が起きてからできることには限りがあります。途方に暮れないためにできるのは、行政等が公開している住まいの再建のフロー等を参考にしながら、自宅が被災した時にすべきことを家族や近所の人と話し合っておくことです。そうやって、住まいの再建のイメージを日頃から膨らませておくことは、大災害への自身の住まいの備えだけでなく、自宅の早期再建により被災した地域の再生を助けることにもなります。命を守る避難から生活を守る避難へ、そしてさらにその先を見据えた備えをはじめましょう。
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災害に備えて住まいのためにできること
住まい情報センターでは、住まいに関する防災への意識を少しでも高めていただくことを目的に、“大阪すまいラボ”防災プロジェクトチームでウェブサイトページ「災害に備えて住まいのためにできること」を作成しました。ぜひご覧ください。